人を愛する事 君が教えてくれたから

第91話

8月に入り、暑さは増すばかりである。

寝苦しい夜、暑さで失せる食欲。

体を少し動かすだけで滲む汗。


ほんの少しの買い物さえ躊躇うような暑さに振り回され、帰宅した時のクーラーから出てくる冷風に癒される。

そんな日々が続いた。


約束の日までは、あと僅か。

プールの時から、連絡は取っていない。

何故そうしているかは解らないが、多分、そうする事により、当日会った時に嬉しさが倍増するからではないだろうか。


今君は何を想い、何を感じ、何を見ている?

今君は誰を想っている?


ありさとは、時間が合えば遊んだ。

ありさもあの日から、梓に会っていないらしい。


泊まりにきた時に話をしてくれた。

思いもよらない人物からの告白の事。



『ずっと好きだった』



梓と知り合ったのは、1年の時。

選択授業が一緒だった。

彼女の描く絵に心から感動し、気付いたら話し掛けていた。


最初は戸惑いながらも話してくれた。

会う度に心を開いてくれて、よく笑うようになって。

話し上手で聞き上手な梓だったから、いろんな話をしたそうだ。


今思えば、きっとあの頃から梓は自分の事を好いていたのかもしれない。

そう思うと、少し心が痛む。


2年になり、同じクラスになれた時は素直に嬉しかった。

以前より距離がぐっと近付いたような。

話す回数も増えた訳で。


時々見せてくれた素晴らしい絵に、何度心が震えただろう。


優しさに溢れた絵。

悲しみを描いた絵。

梓が見た風景の絵。


ただただ、感動するばかりだった。


絵が完成する度に、1番に見せてくれた。

ありさが喜ぶ顔を、誰よりも見たかったのだ。

喜ぶありさを見て、笑う梓。

もっとそうして、近くで、見たかった筈だ。


告白には正直驚いたが、素直に嬉しかった。

真っ直ぐな想いが、気持ちが、眼差しが五感全てを撃ち抜いたような。


近すぎて見えなかった存在。

傍にいるのが、当たり前だったから。

隣に君がいるのが、「あたしの見たい景色」


近い内に梓と2人で会い、その時に答えを告げると言うありさ。

迷いなんて無い。


「あたしの胸の中にある想いを、いつか絵にしてもらうよ」


そう言って、とても綺麗な笑顔を浮かべた。

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