第90話

「うん、覚えてるよ」


「お礼、考えたんだ。

 一緒に花火大会に行こう?

 ほら、8月の第2土曜日にあるじゃない?」


「ああ、地元の花火大会ね。

 うん、いいよ」


「その、ふ、2人で行きたいんだけど…駄目かな」


照れくさそうに言う澪を見て、美咲は笑った。


「いいよ、2人で行こう。

 って言っても、会場の方に行ったら誰かしらに会っちゃいそうだけどね」


「会ったら逃げる。

 2人で楽しみたいから」


「よし、じゃあ、全力で逃げなきゃだ」


2人が約束を交わしていると、梓とありさが帰ってきた。

心なしか、ありさの顔が赤い。


「ありさ、どした?」


「いや…なんでもない」


「顔真っ赤だよ?」


「あれっすよ、蚊に食われた」


「いや、それは嘘だろう」


不意に梓と目が合った。

深々と頷いた梓。

ん?まさか…!?


澪がありさの元に駆け寄ると、入れ違いで美咲の元に梓が来た。


「まさかとは思うが、ありさに告ったんかい?」


「うん、告ってみた」


「梓ってさ、本当にこう、たくましいというか、なんていうか」


「すぐにでも伝えたかったから。

 1年の頃から好きだったし。

 先輩と付き合ってるって聞いた時はショックだったけど」


「知ってたんだ?」


「仲の良かった先輩から聞いた事があったから」


「で、結局ありさと付き合うの?」


「返事待ち。

 駄目でも構わない。

 自分の気持ちはちゃんと伝えたから」


「なるほど…」


「美咲も澪と付き合えるといいね」


「んな、なにっ!?」


「バレバレだから」


「…」


こいつには敵わないかもと思った美咲だった。


「今度の花火大会、澪と2人で行く事になったんだ」


「へえ、良かったじゃない。

 距離が縮まるといいね」


「うん」


「早くしないと、誰かに澪取られちゃうかもよ?

 澪は可愛いんだし」


「それは困る。

 非常に困る」


残す花火は線香花火のみとなった。

小さな火種が大きくなり、ぱちぱちと輝きを放つ。

この僅かな時間は、いつも儚い。


花火を全てやり終え、片付けをしてから駅に向かい、そのまま解散した。

次に澪に合えるのは、2週間後の花火大会。

待ち遠しいばかりだ。


少しでも早く、時間が経ちますように。

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