第87話

「澪も先に行ってて良かったのに」


「ううん、いいの」


それっきり会話が途切れてしまった。

久し振りに会い、嬉しいはずなのだが、なかなかどうして上手く話せない。


少し気まずい沈黙が訪れたが、それを破ったのは美咲だった。


「その、水着、本当に似合ってるよ」


恥ずかしがっているのか、目線は前に向けたままの美咲。


「えっ、あ、ありがとう」


「可愛い、です」


「なんでちょっと片言なの?」


2人の顔に久し振りの笑顔が浮かぶ。


「この1週間なにしてたの?」


「バイクで軽く走ったり、家で本読んだり、ゲームしたりとか、かな。

 澪は?」


「あたしはバイトばかりだったよ。

 あとはたまに買い物に行ったりとか」


「そっか。

 バイトは忙しいの?」


「ん~、ぼちぼちかな。

 朝から夕方までフルで入って、くたくたになって帰ったりとか」


「無理しちゃ駄目だよ」


「うん、大丈夫だよ。

 ありがとう」


ロッカールームに着き、浮き輪が入った袋を取り出し、再びロッカールームを出た。


「何か飲もっか。

 何がいい?」


「コーラかな。

 大きいの買って半分こしようよ」


「ん、解った」


売店でLサイズの紙コップのコーラを買い、受け取ると澪に渡した。

ストローをさして澪が一口飲むと、美咲に渡す。

美咲がストローを咥え、飲み始めた時に、「間接ちゅ~だね」と言った途端、口に含んでいたコーラを盛大に吐き出した美咲。

それを見て、ケラケラと笑う澪。

手の甲で口を拭くと、改めてコーラを飲み直す美咲だった。


「ねえ、変な事聞いてもいい?」


真面目な顔で美咲に問い掛ける。


「ん?なに?」


ストローを咥えたまま、澪に視線を向ける。


「…あたしと会えなくて寂しかった?」


ほんの少し澪を見つめ、視線を前に戻す。


「…寂しかったよ」


「あたしも寂しかった。

 今日久々に会えて本当に嬉しいの。

 最後に会った時、あたし態度最悪のままだったから、もしかしたら美咲は今日来ないかなって思ってた。

 だから、こうやって話す事が出来て嬉しい。

 あの時は本当にごめんね…」


悲しげな表情を浮かべながら話す澪に、持っていたコーラを渡す。

空いた手で澪の頭をぽんぽんすると、美咲は笑った。


「久々に会えたんだから、いつもの可愛い笑顔いっぱい見せてよ」


その言葉を聞き、安心したのと同時に嬉しさが込み上げてきた。

屈託のない笑顔を美咲に向けた澪だった。

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