第84話

ぽろぽろと涙が零れてく。

止めなくてはと解っているのに、涙は止まらずに溢れ出す。


「ちょ、澪どしたね!?」


慌てて鞄からタオルを取り出し、澪に渡すありさ。


「ごめん、なんか、嬉しくて…。

 ずっと1人で考えてたから。

 こんな事、誰かに簡単に話せる事じゃないし…」


「そんなに溜め込んでたのか。

 ごめん、気付いてあげられなくて」


しょぼんとした顔をしながら言うありさを見て、澪は少し笑った。


「佐山さん」


「澪でいいよ。

 あたしも梓って呼ばせてもらうから」


「じゃあ、改め澪。

 とりあえず、プールの日までは連絡を取ったり、会わない方がいいんじゃないかな。

 少し時間をおいて、気持ちを整理するのも大事だと思う。

 下手に会ったりしてこじれちゃったら、それはそれで気まずいし」


「会いたい気持ちを我慢した方が、会った時に嬉しさが倍増するもんだし。

 本当は今すぐに会いたいんだろうけどさ」


またしても図星である。

出来る事ならば、今すぐ会いたい、謝りたい。


「焦ってもいい事ないよ。

 大丈夫、みさきちはちゃんと来るよ。

 だから今は我慢ね」


やっと心が落ち着いた。

ずっとつっかえていた何かが、取れたような気がした。

梓とも仲良くなれて嬉しい。


美咲に会えるまで、あと1週間はある。

それまでに、心の準備をしておかなくては。

あと、水着も買いに行かないと。

やる事は色々ある。


いつか、美咲に自分の素直な気持ちを伝えよう。

拒まれてもいい。

何も言わないで後悔するくらいなら、何かをしてから後悔した方がいい。


早く会いたい。

すぐにはいつものように話せないかもしれないけど、ありさも梓もいるから大丈夫だと思う。


今はとりあえず我慢。

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