第82話

澪がありさと梓に連れ去られた事も知らず、帰宅した美咲。

部屋着に着替え、麦茶を片手にベランダで煙草を吸った。


ギラギラと照りつける太陽。

これから2ヶ月くらいは、この暑さに付き纏われるのかと思うと、溜息しか出なかった。


さっきの態度は、やっぱり良くなかったかな…。

何かを言おうとした澪と目が合ったものの、目をそらしてそのまま去ってしまった。

悪かったと思う気持ちはある。

しかし、自分はどうすればいいのか解らなかった。


プールに行くの、やめようかな。

こんな状態で行っても、楽しくはないのは目に見えている訳だし。

でも、ありさは凄く楽しみにしているみたいだったな。

今更断るのも申し訳ない気もする…。


松本さんは、プールの時にありさに自分の気持ちを告げると言っていた。

彼女の事だ、きっと伝えるのだろう。



いっそ自分も澪に気持ちを伝えてみるか。



…いや、でも、それは。



気持ちを伝えて、嫌われたらどうしよう。

だったらこのまま、友達のままでいいのでは?

でもきっと、いつまでも自分の心を隠せるはずもない。


どうして自分は女として生まれてしまったのか。

もし自分が男だったら、周りの事なんて全く気にする事なんてないのに。


違う、性別の事じゃない。

ただ単に、自分に踏ん切りがないだけだ。

本当に澪の事が好きなら、そんな事どうでもいい。


澪は今頃何をしているだろう。

バイトに行ってるだろうか。

誰かと遊んでいるだろうか。

それとも家にいるのだろうか。


会いたい。

けど、会えない。

また胸が苦しくなる。


腕に残る、あの時の温もり。

あの体温に、もう1度触れたい。

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