第81話

教室はいつもより賑やかで、あちこちで夏休みの予定を決める人達が目についた。

中には夏期講習に行くからと、断る声も聞こえる。


澪は既に来ていた。

此方に気付くと「おはよ」とだけいい、それっきり話はしなかった。

自分もそれ以上の事は求めていなかったので、同じく「おはよ」と返しただけだった。


HRが終わると体育館に移動し、校長の長い話を終え、再び教室へと戻る。

通知表を受け取り、中を覗いて見たものの、特に大したこともない、平均的な数字ばかりだった。


帰りのHRも終わり、無事に1学期も終了した。

待ち望んだ夏休みが始まる。


「終わったぁあああああっ!

 アイアムフリーダムゥウウっ!」


「みんなフリーダムだろ。

 ほら、帰るぞ」


「あ、あたし梓と帰るんだ。

 すまん」


申し訳なさそうに、顔の前で両手を合わせるありさ。

反面、何処か嬉しそうな雰囲気も掴める。


「そか、じゃあ、1人で帰るかな」


「なんで?

 澪と帰ればいいじゃん」


「今はその単語タブー。

 じゃあ、またプールの日にね」


鞄を持つと、そのまま歩き出してしまった。

一瞬澪と目が合ったように見えたが、美咲は何も言わずに出て行ってしまった。

一部始終を見ていたありさの元に、梓がやってきた。


「ありさ、どした?」


「…澪捕獲計画発動っ!」


「え?あ、はいはい、捕獲~」


2人して澪の元へ行き、ありさはそのまま澪に抱き付いた。


「確保~っ!」


「ちょ、ちょっとありさ、どうしたの?」


2人を見た梓は、恨めしそうな顔をしながら呟く。


「いいなあ、佐山さん」


「え、あの、状況が見えないんだけど!?」


「話は後で聞こう。

 よし、とりあえず学校出るぞ~」


ありさと梓に捕まった澪は、さしずめ捕えられた宇宙人のようだった。

3人は駅前のファーストフードに場所を移す。

澪には席を取っておいてもらい、残る2人は注文をしに行った。


待っている間、先程の事を思い出す。

「じゃあ、またね」と言おうと思った。

でも、目をそらされて、そのまま行ってしまった。


溜息をついていると、2人が戻ってきた。

山盛りのポテトと、人数分のハンバーガー、そしてジュース。

自分のジュースにストローを挿し、1口飲んでから口を開くありさ。


「さてさて、貴女の溜息の理由、聞かせてもらいますわよ?」

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