第75話

何かが鳴っている。

目蓋を開けると、携帯のバイブが鳴っていた。

泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


美咲から着信が……。

メッセージもきてる。

返信しないと。


メッセージの返信画面にすると、ありさから着信があった。

ゆっくりと出る。


「おっす。

 今日は買い物付き合えなくてごめんね。

 可愛い水着はゲットした?」


ありさの声を聞いたら、なんだか安心してしまった。

少し笑顔を浮かべながら澪も答える。


「今日は行かなかったんだ」


「あれ?そうなの?

 てか、澪鼻声じゃない?

 風邪でもひいた?」


「あ、いや、その……大丈夫、なんでもないよ……」


「大丈夫?

 なんでもないならいいけども」


「うん、平気だよ」


平気だよと言いながらも、いつもの声でいつもの自分を通すのも辛い。


「……なんかあったでしょ?

 澪は嘘下手だから、すぐに解るよ」


ありさの言葉に、また泣きそうになる。

堪えなきゃ。


「ちょっとね。

 でも、もう大丈夫だから」


この苦しみを誰かに打ち明ける事が出来たら、どんなに楽になるだろう。

言おうかどうしようか考えたけど、結局やめたのだった。


適当に会話をしてから電話をきると、部屋のドアをノックする音がする。


「澪、あんたご飯食べたの?」


母親がドアを開けて入ってきた。

そういえば、帰ってきてから何も食べていない。

無論、食べる気にもなれそうにないが……。


「目が真っ赤だけど泣いたの?」


「……欠伸したら、涙が出ただけだよ」


ふうんと言いながらも、何かを勘づいてるような素振りを見せる母親。

何も言わないでいてくれるのは、せめてもの救いだった。


「明日も学校なんだから、早く寝なさいよ」


「うん」


母親が部屋から出ていくのを見送ると、再びベッドに横になる。

出来るなら学校には行きたくない。


あれこれ考えていると、睡魔に襲われた。

まだ美咲にメッセージの返事してないのに。

でも、もう寝よう……。

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