第70話

「もしもし」


思いもよらない電話の相手に、どう反応すればいいのか解らない。


「えっ!?

 ちょ、なんで!?

 なんで美咲があたしの番号知ってんのっ!?」


耳元から、煙草の煙を吐き出す音が聞こえてくる。

なんだか耳がくすぐったい。


「さて、なんででしょう」


悪戯な声が返ってくる。

余裕なところが、余計に意地悪だ。


「あ、ありさから聞いたの?」


「違う~」


やはり余裕な声での返答。

もう何がなんだか解らない。


必死に答えを探していると、くすくすと笑う声が聞こえてきた。


「澪がスマホを持ったまま寝てたから、バレないように抜き取って、私の番号とアドレスを入れておいたんだ。

 で、澪のスマホから私のスマホに、澪の情報を送信した訳だ。

 澪のスマホ、スライドで開いたから良かったよ。

 暗証番号で解除のやつだったら、ありさに電話番号聞こうと思ったんだ」


いつの間にそんな事を。

あ、そういえば、美咲はあたしより先に起きてた。

あの時はもう、あたしのスマホを弄り終えた後だったんだ。


「ごめん、迷惑だったかな」


「そんな事ないっ!

 ちょうどあたしも美咲の番号とか聞きたかったからっ」


「そうなん?

 それなら良かった」


少しの間の後、2人の声が重なった。



「「これでいつでも連絡がとれるね」」



同じ事を考えていたようだ。

言い終わった後、2人で笑ってしまった。


「じゃあ、気を付けてね」


「うん、ありがとう」


電話をきると、2人は嬉しいそうな表情を浮かべたままだった。

2人の距離が少し近付いたような。

そんな気持ちが心に広がっていく。


高鳴る胸に秘めた想い。

誰にも言えない、秘密の想い。

今はまだそっと、ヴェールで隠して。

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