第69話

「出来たよ~」


お盆に丼を乗せ、こちらにきた美咲。

ソファに座り、クッションを抱えていた澪は、美咲の声に反応して顔を上げた。


丼をテーブルに乗せると、澪の隣に腰かけた。

一瞬澪の体がぴくりと反応するも、気付かないフリをする。


「いただきます」


「い、いただきますっ」


最初は無言で食べていた2人だったが、ぽつりぽつりと会話を始める。


「看病してもらったお礼しなきゃね」


「え、いや、ほら、あたしが勝手にやっただけだし」


「それでも看病してもらった事には変わりないよ。

 お礼、何がいいかな」


「ん~……。

 いきなりだとこれっていうのが浮かばないなあ」


「それもそうか。

 じゃあ、考えといてね」


「わ、解った」


食べ終わり片付けると、澪はそろそろ帰ると言い出した。

本当はもっと一緒にいたいような…。


玄関まで一緒に行く。

ドアを開けると、そのまま少しだけ会話を交わす。


「本当にありがとね。

 助かったよ」


「ううん、少しでも役に立てたならいいんだけど」


「十分すぎるくらいだよ、ありがとう。

 ごめんな、バイクで送ってあげたいんだけど……」


「ダメダメ、病人が何を言ってるの。

 バイクは元気になってからね。

 それと、明日も休まなきゃだよ」


「うん、解ってる。

 明日もう1日休めば、大丈夫だと思うから」


「早く良くなってね」


「ん。

 じゃあ、気を付けて帰るんだよ」


手を振る澪を見送ると部屋に戻り、そのままベランダを目指す。

煙草に火をつける前に、携帯を取りに戻った。

そして、ベランダに戻り、煙草に火をつける。


澪が出てきたのが見えた。

立ち止まったかと思ったら、振り返り顔を上げた。

街頭が澪の顔を照らし出す。


こちらに気付いたのだろうか、手を振っている。

手を振り返した後、美咲は携帯で誰かに電話をかける。


暫くして、澪は制服のポケットを探り始めた。

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