第65話

「ね、熱計ろうか」


枕元にあった体温計を取り、美咲に渡した。

38度か。

薬が早く効けばいいけど。


起こしていた体を寝かし、布団を掛け直してあげた。

少し寝かせないと。


「美咲、少し寝た方がいいよ」


「うん。

 澪は帰るの?」


「ん~、どうしようかな」


「…いてくれると…嬉しいな…」


それはとても消え入りそうな声で。

何かをしながらだったら、聞き取れなかったかもしれない。


一瞬照れながらも、ニコッと笑って短く解ったと答えた。

密かに「今日は家に帰ったら赤飯だ」と思っていたのは内緒な訳で。


目蓋を閉じた美咲を見ていたら、頭を撫でたくなった。

触ってもいいかな。

どさくさ紛れで、うん、触っちゃえ。


腕を伸ばし、美咲の頭を触ると、美咲の目蓋が静かに開く。


「あ、ごめんね。

 寝るの邪魔しちゃうから向こうに行くね」


手を引っ込め立ち上がろうとしたが、美咲の言葉によってその行動をとめられる。


「寝るまで…ここにいて…?」


暫くすると、寝息が聞こえてきた。

安らかな寝顔をしながら眠っている美咲の頭を、ずっと撫でていた。


この人はこんなに寂しがり屋だったのかな。

なかなか自分の事を話す人じゃないし。

言わない分、そういう気持ちが強いのかな。


立ち上がり、部屋を出るとソファに座った。

時計は昼過ぎを示していた。


自分もお腹が空いたので、鞄から弁当箱を取り出す。

テレビをつけると音を小さくして、適当なチャンネルに合わせた。


そういえば、ありさはどうしただろう。

鞄から携帯を取り出すと、ありさからメッセージが届いていた。


「みさきちはどう?

 学校の帰りに向かうつもりだったんだけど、母ちゃんにおつかい頼まれちゃったから、行けそうにないや。

 早く治るように、念送っておく(笑)」


昼ご飯はいつも美咲と食べていたけど、今日は誰と食べてるんだろ。

返信すると、写真付きのメッセージが返ってきた。


「クラスの子達と食べてるから大丈夫だよ~」


見慣れた人達と一緒に映るありさの姿があった。

とりあえず一安心だ。


美咲の状況を告げた返信をし、残りの弁当を食べる事にした。

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