第64話

お粥の準備も終わり、もう少し煮たら出来上がりだ。

軽く部屋の片付けでもしよう。


腕時計を見ると、まだ10時半だった。

時間が経つのが遅い。

それはそれで嬉しくもあり。


出来上がったお粥をお椀によそうと、盆に乗せて寝室まで運んだ。

眠っている美咲に声を掛ける。


「美咲、お粥出来たよ。

 起きれる?」


ゆっくりと目蓋を開け、澪の姿を確認する。

盆をデスクの上に置き、一緒に持ってきたスポーツドリンクが入ったコップを美咲に渡した。

力なく少し飲むと、澪にコップを戻した。


「お粥、食べれる?」


体を起こしてるのも辛そうだが、少しでも食べないと薬を飲ませる事が出来ない。

あれこれ考えていると、視線を感じた。

美咲がこちらをぼ~っとしながら見ていた。


「あ、ごめんね」


お椀を取ると、ふとある事が浮かんだ。

出来るかな、どうだろう。

でも、今しかないかな。


レンゲに少量のお粥をすくうと、自分の口元に近付け息を吹きかける。

そして、レンゲを美咲の口元に近付けた。


「はい、あ~ん」


いちかばちかの勝負。

これで食べてくれるだろうか。


差し出されたレンゲを少し見つめると、口を開けてレンゲを口にふくんだ美咲。

その動作にまた胸がキュンキュンしたが、今はそれどころではない。

しっかりと美咲に食事をさせなくては。


「…美味しい?」


心配していた味はどうだろう。

料理はお母さんの手伝いをしてるから、そこまで下手ではないとは思うけど…。

人様に食べさせるのは…まして美咲に食べさせるのは緊張する。


首を縦に振った美咲は、無言で口を開けた。

2口目を要求しているようだ。


嬉しくて、可愛くて、胸がいっぱいになる。

普段の美咲からは、全く想像出来ないこの姿。


また新しい美咲を見れた。

自分ばかりが発見しているな。

またしても独り占め。

たまには神様にでも感謝してみようかな。


お粥を食べ終わると、薬を飲ませた。

お椀を片付けると、新しい冷却シートを持って寝室に戻る。

取り替える時に額に触ってみると、まだ熱は高いようだ。


「澪の手、冷たくて気持ちいい」


ぽつりと呟く美咲の言葉に、体温が一気に上昇した澪だった。

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