第62話

学校を出ると、そのまま駅を目指す。

相変わらず雨は降っていて、歩いていると時折見知らぬ誰かの傘にぶつかる。


駅に辿り着き、電車に乗り込む。

同乗者は疎らだった。

雨のせいで制服が少し濡れてしまった為、車内の冷房が肌寒い。

なるべく風が当たらないところを探し、そこに落ち着いた。


窓から流れる景色を見る。

美咲が住む駅までは10分強。

いつもならあっという間に着くのに、今は遅く感じられた。


改札を出ると、真っ先にスーパーを目指す。

必要な物を買うと、足早に美咲の住むマンションを目指した。


ありさから借りた鍵を取り出し、1つ目のドアの鍵を開けるとエレベーターに乗り込んだ。

3階のボタンを押し、目的の階に着くのを待つ。


エレベーターを降りて左に曲がり、3つ目の扉の前で足を止めた。

インターフォンを鳴らしてみたが反応はない。

ゆっくりと鍵を差し込み回すと、ガチャリと鍵が開いた音が響いた。

ドアを開けると電気は消えていて、カーテンも閉めきっているので薄暗い。


「お邪魔します」と小さく言いながら部屋に上がり、キッチンへ向かうと、先程買ったものが入った袋を置いた。


辺りを見回すと、ソファには脱ぎ捨てた服がそのままになっていた。

テーブルの上には、弁当の空箱が無造作に置かれている。


美咲の姿はここにはない。

寝室と思われるドアの前に立ち、ドアノブにそっと手をかけると、ゆっくり回した。


「み、美咲…?」


小声で美咲の名前を呼んでみる。

代わりに聞こえてきたのは寝息だった。


寝室にも服が脱ぎ捨てられていた。

それを拾い、デスクの椅子の背もたれにかけると、音をたてないように静かにベッドに近付く。


そこには苦しそうに眠る美咲がいた。

右手で美咲の額に触れてみたが、とても熱かった。


踵を返し、キッチンに向かうと袋から冷却シートを取り出し、寝室に戻った。

シートを剥がして額に張ると、美咲がうっすらと目を開けた。

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