第61話

「美咲は今1人で苦しんでんの!?

 えぇっ、おいっ!」


ぎりぎりと首を絞める力が増していく。

いつもと違う澪に、戸惑いどころか恐怖を感じるありさ。

が、この状況、どうしたらいいもんか。

下手な事を言って、余計に刺激してしまったら、大惨事になりかねない。


「み、澪、た、頼むからあたしの話を…ぐえっ」


「美咲が可哀想…。

 今も1人で熱に苦しめられてるんだ…。

 今すぐに飛んでいって、看病の1つでもしてあげたいのにぃいいいいっ」


その一言を聞いたありさは、自分の鞄を指さす。


「あ、あたしの…鞄の中に鍵…」


「え、鞄が何?

 どこでもドアでも入ってんの?」


「鍵…みさきちの…」


「え、美咲の鍵?」


それまで手に込められていた力が抜け、ぱっと離されたありさは、バランスを崩し床に尻餅をついた。


「あれ?

 尻餅なんかついてどうしたの?」


今度は澪がきょとんとした顔で、ありさに問いかける。

今まさに起きていた出来事を覚えてないのか。

友達の意外な一面に、軽い恐怖を覚えたが、それを口にする事はなかった。


「い、いや、なんでもないっす…」


ぱんぱんとスカートを掃うと、鞄から鍵を取り出した。


「これは?」


「みさきちの家の鍵。

 さっきも言った通り、みさきちは一人暮らしだから、なんかあった時の為に鍵を渡されてんの。

 これ使って家に上がればいいんじゃない?」


「え、でも、いいのかな…」


あの取り乱し方が嘘だったかのように、いつもの澪がそこにいた。

みさきちがいないだけでこんなに取り乱すのかと、新たな発見をしたありさ。


「問題ないっしょ。

 あたしは学校終わってから様子を見に行くつもりだったんだ。

 学校サボって看病してくれば?」


「いきなり押し掛けたら迷惑になるんじゃ…」


「じゃあ、学校の帰りに一緒に見舞いに行く?」


腕を組み、真剣な面持ちで考え出した澪。

今までこんな真剣な顔は、今まで1度も見た事がない。



「美咲の事が心配だから、今から行く」



帰る仕度をして、鞄を持つと、タイミングよろしく久保が教室に入ってきた。


「澪~、HR始めるよ~?」


「すみません、生理痛が酷いんで帰りますぅうっ」


言い終わる頃には、一目散に教室を出て行った。

生理痛であんなに元気に走れるもんか?

小さな疑問が生まれたが、気にせずHRを始めた久保だった。

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