君を思う気持ちは紫陽花のように

第60話

6月を迎えてから1週間が過ぎた。

梅雨独特の不快感、じめじめ。

肌に纏わりつく髪の毛が鬱陶しい。


今日も天気は雨。

連日続く雨には、誰しもがうんざり顔。

もうすぐ訪れる、夏のからっとした暑さが少しばかり恋しくもなる。


澪が教室に着くと、美咲はいなかった。

まだ来ていないのだろうか。

いつもはあたしよりも早くに席に着いていて、ありさと話をしているのに。


席に着き、教科書等を机にしまっていると、背後から声をかけられた。


「澪~、おはよ~う」


声の主はありさだった。


「おはよ~。

 今日美咲は?」


さり気なく尋ねてみる。


「あ~、みさきちは今日は休みだよ。

 も~、みんな同じ事ばっか聞いてくるんよ~」


少し困ったような笑顔を澪に見せた。


「うぇえ~っ、美咲休みなのっ!?

 何故さっ!

 ほれっ、早よ答えてっ!」


気付いた時には、ありさのワイシャツの襟を掴み上げ、前後に揺すっていた。


「ぐげっ、がはっ。

 ちょ、ちょと、澪さんっ!

 落ち着いて!

 すみません、お願いしますっ!」


はっと我に返り、慌ててありさを解放する澪。

自分でも、自身の行動に驚いているようだ。


「あ、ご、ごめん。

 取り乱しちゃった」


「も~、澪ちゃまご乱心…げほっ」


乱れた襟を直しながら、美咲の事を説明する。


「みさきちは今日は風邪で休み。

 この前バイクで走ってたら、急な雨に降られてずぶ濡れになったんだって。

 で、そのせいか昨日の夜から寒気がとまらなくて、結果的に熱が出たみたいよ。

 てか、みさきちから連絡なかったん?」


「いや、あたし美咲の連絡先知らないから……」


「まだ番号とか交換してなかったんか。

 まあ、とにかくみさきちは休みです」


ありさの話を聞き終えた澪は、明らかに寂しそうだった。

ありさが次の言葉を探していると、澪の方が先に言葉を発する。


「家の人はいるの?」


「みさきちは一人暮らしだよ。

 話してなかったっけ?」


きょとんとした表情で答えるありさの首を、澪は勢いよく締め上げた。


「聞~い~て~な~いぃぃぃ~っ!」


「ぐっ、み、澪さん、落ち着いて…」


ありさの足は少々浮いていた。

完全にネックハンギングツリー(※プロレスの技の名前)がきまっていた。

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