第59話

暫くの間、無言が続いた。

ありさも2本目の煙草に火をつけ、静かに吸い始める。


それまで俯いていた顔を上げた美咲の先には、綺麗な満月が浮かんでいた。

謎めいた光が、何かを語っているようにも見える。


「…解らないんだよ」


ぽつりと言った美咲をありさは見やる。


「ふとした仕草にドキッとしたり、ちょっとした言葉に嬉しくなったり。

 他の人と何も変わらないのに、澪は何かが特別なように思える」


こくりと首を縦に振り、頷くありさ。


「それが愛だの恋だのって言われても、自分じゃどう答えを見つけたらいいのか解らない。

 百歩譲ってこれが恋だとしよう。

 でも、その思いを澪に伝える事なんて出来ない。

 誰しもがそういう事を受け入れるとは思えない。

 拒む人間だっている。


 まして女同士ならなおさらだ。

 拒まれるくらいなら、今の状況を維持する方を選ぶよ。

 恋人として傍にいれなくても、友達として傍にいれるならその方がいい」


言い終えると煙草の火を消した。


「まあね、そうなるわな。

 あたしも先輩に告る時は怖かったよ。

 嫌われたり、気持ち悪がられたりしたらどうしようって。

 でも、そんなん考えるよりも、やっぱ素直に自分の気持ちを伝えたかったから。


 言わないで後悔するなら、言ってから後悔する方がいいと思ったし。

 結果的にはいい方向にいけたからよかったけどね」


美咲の方を向くと、ニコッと笑った。


「みさきちがどんな人を好きになろうが、あたしは全力で応援する。

 1人で抱え込むくらいなら、全部あたしに話せ。

 うちらの付き合いは、そんな軟いもんじゃないだろ」


言われたかったのかもしれない。

この言葉を待っていたのかもしれない。

胸が熱くなる。


「…ありがとな」


精一杯の一言だったが、これで十分だったに違いない。

それ以上は言わなくても解る。


改めてありさの存在の大切さを思い知った美咲だった。

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