第58話

澪と別れ、2人はありさの家を目指した。

家の前にバイクを停め、煙草を吸い始める。


先に吸い終えたありさが、靴で煙草の火を消しながら呟いた。


「みさきちさ、澪の好きなん?」


口に咥えていた煙草が口元からポロッと落ちて、静かに地面に道転がる。

慌てて煙草の火を消し、吸殻を拾い上げると携帯灰皿にしまった。


「なしてよ」


なるべくありさと視線を合わさないようにしながら、言葉を返していく。


「いや、なんとなく」


さらりと答えるありさ。


「好きというか、友達として好きだぞ」


「ふ~ん?

 あたしにはそうは見えないけども」


意味深に言うありさに、仕方なく視線を合わせるしかなかった。


「あ、言ってなかったけど、あたし前に女の子と付き合った事があるんだよね」


思わぬ告白に絶句してしまう。


「別に言わなくても良かったかもだけど、言いたくなったから言ってみた。

 気持ち悪いって思うのは仕方ないけども」


「いや、別にそうは思わないよ。

 誰を好きになろうなんて、そんなん自由だ」


まるで自分に言い聞かせるように答える。


「好きだった先輩に告ったら、晴れて付き合えるようになった。

 まあ、長くは続かなかったけどね」


「周りには付き合ってるのを知ってる人はいたの?」


「いや、いない。

 もしかしたら、気付いてた人はいたかもしれんけど」


悪友であり、幼馴染みであり、親友であるありさからの意外すぎる過去。

自分は今、どんな顔をしながらこの場にいるのだろう。


「いきなりすぎる話をしてごめん。

 まあでも、たとえばみさきちが、本当に澪の事を好きになったら応援してやらん事もない」


「なんで上から目線なんだよ」


遠くを見ながら言う美咲の顔を、ありさが覗き込んでくる。

見透かされた顔をされた。

付き合いが長いと、微妙な仕草でも相手に気持ちを悟られてしまう。


2本目の煙草に火をつける美咲。

次の言葉が浮かばず、考える時の癖なのをありさは知っている。

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