第54話

一拍おいてから、再び澪が話し始める。


「彼氏とはもう結構前から微妙だったから、今更どうこうとかはない。

 むしろスッキリしたかな。

 あんな男の事で悩んでた自分がバカみたい」


少し俯いた後、すぐに顔を上げる。


「バイトもさ、バイトが終わったら彼氏の家にそのまま行けるように、ここの駅にしたのになあ」


「え、あの駅前の本屋?」


「うん。

 もうバイトを始めて1年になるかな」


「そうだったんだ。

 バイトは辞めるの?」


「どうしようかなあ。

 バイト自体は嫌いじゃないし、店の人達もいい人だしなあ」


すると、一応それまで大人しくしていたありさが割り込んできた。


「辞めなくていいんじゃない?

 バイト終わったら、みさきちに飯でも作ってもらうとか」


さも当たり前のような顔でいうありさ。

予想もしていなかった言葉に、澪は固まってしまった。


「あのなあ、澪の都合も考えろよ」


「え、だってさ、澪がみさきちの家に来たら、こうやって3人でご飯食べれるじゃん」


「確かに」と納得する美咲。


「澪はどう?

 週末とかはパジャマパーチー出来るよ?

 女だらけのお泊り大会っ!」


「大会って何だよ」とツッコミを入れたかったが、グっと堪えた美咲。


「どう?

 悪い話ではないと思うけど」


子供のような笑顔を見せながら言うありさ。

拒否をする理由は無い。

それに…。


「そうだね、じゃあ、バイトは続けようかな。

 ご飯はたまに食べに来ようかな」


ニコっと笑って答える。


「こうしてうちらの友情は、更に深まったのであった」


「なんでいい感じにしめてんだよ」


「ツッコむなっ!

 てかさ~、彼氏も全裸で腕掴むとかどうなんよ。

 そんな彼氏の股間を蹴り上げる澪もすげ~よ。

 なんか格闘技でもやってたの?」


「お父さんが昔空手やってて、よく教えてもらってたんだ」


「そうなの?

 私も空手習ってたんだ」


「こいつはもう、格闘技ばかなんだよ~。

 今はボクシングにお熱なのん」


「いいじゃん、ボクシング。

 男の美学を感じるじゃんか」


すると、話を聞いていた澪が顔を輝かせた。


「いいよね、ボクシングっ!

 あたしも最近ボクシングにハマってるんだ!」


「ここにも1人、格闘技バカがいたわ…」

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