第53話

立ち上がり、キッチンに向かうと、先程のありさのように換気扇の所で煙草を吸う美咲。

大きく煙を吸い込み吐き出す。

そんな美咲を見ながら、ケラケラと笑うありさと澪だった。


「みさきち、おもろいでしょ?」


まだ笑いが収まらないありさ。

同意を求められた澪もまだ笑っている。


「面白いっていうか、可愛いかな」


無邪気に答える澪。

また1つ、自分の知らない美咲を見れた事が嬉しかった。


他愛ない事を話しては笑った。

学校とはまた違った感じ。

話は絶えなかった。


会話の途中で、なんとなく起きた束の間の沈黙。

それを破ったのは澪だった。


「あのね、今日彼氏に会いに行ったんだけど…」


言い出した瞬間、ありさと美咲はアイコンタクトをとる。


「いつもみたいに彼氏の家に行ったら、彼氏は私の知らない子とよろしくヤってた。

 もうね、呆れちゃったよ。

 捨てゼリフ1つ残して家を出ようとしたら、彼氏が裸のままあたしの腕を掴んできたから、ボッコボコにしちゃった」


「「えっ!?」」


美咲とありさの声が、見事にシンクロする。


「彼氏が蹲ったから、とどめに股間を思いっきり蹴り上げたんだ。

 そのまま彼氏は失神しちゃったけど」


黙って話を聞いていた2人の顔が青ざめる。

男ではないので痛みは解らないが、その行動に出た澪が恐ろしく思えた。


「女の子には何もしないで、睨みを1発かまして家を出たの。

 で、駅に向かってたら、美咲に声を掛けられて」


「そんで『お前の体を売れ』と脅迫された訳だ」


「話折ってんじゃねえよ。

 つか、そんな事言ってねえからっ」


「それでね、美咲の顔を見たら急に涙が零れてきちゃったの。

 止めようとしたんだけど、止まらなくて…」


「そうかそうか、やっぱみさきちの顔は怖かったんだね。

 可哀想な澪…」


「お前もう黙ってろよぉぉぉぉっ!」

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