第50話

何がなんだか解らない。

美咲の思考回路はショート寸前だ。


どうしよう。

どうしたらいい。


子供のように泣きじゃくる澪は、泣くばかりで言葉はない。

ここでこのまま泣かれるのも……。


「澪、とりあえず行こう」


彼女が頷くよりも早く、手を握るとそのまま歩き出した。

手を繋いだまま、少し先を歩く美咲。

その後を鼻をすすりながら、うつむき歩く澪。


促されるまま美咲のマンションに着き、出迎えたありさも突然の出来事を理解する事が出来なかった。


「買い物に行って、買ってきたのは澪だったのか?

 いくらで買ったんだ、おい。

 そしてなんで澪は泣いてんだ。

 みさきちの金額が気に入らなかったんじゃねえのか?」


「おいこら、なに訳の解らん事を言ってんだ。

 私はちゃんと買い物に行って食材を買ってきたんだ」


「食材って……澪の事かあぁあああああっ!

 女体盛りか、くらあっ!」


「どうやったらそういう発想になるんだ、こるぁあっ!」


「あたしの可愛い澪を汚すというなら、それ相応の覚悟は出来てんだろうなあっ、おいっ!」


「訳解んねえ事言ってんじゃねえっ!

 とりあえずご近所さんの迷惑になるから、さっさと家に入れろやあっ!」


ひとまず家に入り、澪をソファに座らせた。

澪は泣き止んではいたが、うつむいてばかりだ。


澪の前にお茶の入ったコップを置くと、ありさがずかずかと澪の隣に腰掛けた。


「さあ澪、何があったかあたしに話してみ。

 あのアホに何されたんだい?」


「ちょっと待て、なんで私が悪者なんだよ」


「だまらっしゃいっ!

 胸でも触られた?

 パンツ売れって言われた?」


「何処の変態だよ、おいっ!

 スーパーから出たら澪を見掛けたから、追い掛けて話し掛けたら泣き出したんだよっ!」


「追いかけ回されたのか。

 それはそれは怖かっただろうね、よしよし」


犬の頭を撫でるように、澪の頭をわしゃわしゃと撫でるありさ。

お陰で澪の髪の毛はぐしゃぐしゃになってしまった。

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