第46話

いつもの帰り道。

先程別れたばかりの澪の事を考えていた。


澪に彼氏がいる話は、ありさからなんとなく聞いた事があった。

澪本人の口から、彼氏の事を言われたのがちょっと胸に引っかかったのは何故だろう。


それにしても、随分な男と付き合っているなあ。

そんな男に何を求めるのだろう。

私なら悲しい想いなんてさせないのに。



…待て待て待て。

「私なら」って何だ。

おかしいだろ、自分よ。


まさかな。

そんな事はない。

ある筈ない。

あっちゃいけない事だから。


頭を軽く振り、運転に集中する。

家まではあと少し。


駐輪場に着き、足早にエレベーターに向かう。

部屋の鍵を開けると、適当に靴を脱ぎ、ソファに鞄を投げる。

テーブルの上に出しっぱなしの煙草を取り、1本取り出して火をつける。

そのままベランダに出て、街を見下ろす。


夕陽に染まる街は人で溢れ、何処へ向かうのかも解らない。

母に手を引かれ、嬉しそうに歩く子供。

上司であろう人の隣を歩きながら、ぎこちない笑顔を浮かべている人。

スマホをいじりながら、誰かを待っているであろう人。

ゆっくり流れるこの時間の中で、自分は今、どれくらい時間を無駄にしているのだろう。


2本目の煙草に火をつけたところで、玄関のチャイムが鳴った。

インターホンのモニターを覗けば、見慣れた人物が対応を待っている。


「はい」


「貴女は神を信じますか?」


「私が信じるのは己だけです。

 とっととあの世にお帰りやがれ」


「ちょ、ちょっとお、もう少し優しい対応してくれてもバチ当たらないよ?」


「甘やかすと、ろくな人間にならんと言うし」


「てめえ、誰が駄目人間だ、この野郎っ」


「貴様です、このメス豚」


「おいこら、早よドア開けろっ!

 その悲しい胸に、悲乳の烙印してやるぁっ」


「上等だ、この野郎っ!

 この世に別れを告げる準備してから上がってこいやあっ」

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