第45話

卓也の家は自分の家とは逆方向で、2つ目の駅に家がある。


賑やかな商店街を抜け、暫く歩くと公園が見えてくる。

そのまま更に歩くと、白いアパートが見えてくる。

そこが卓也の家だった。


両親は共働きで、殆ど家にはいなかった。

いつも1人で過ごし、2人でご飯を食べる時は、「1人で食う飯は不味いけど、2人だと美味いよな」と言った事もあった。


最後にここに来たのはいつだっけ。

覚えてもいない。


1階の1番奥の家。

玄関に近付くにつれて、鼓動が早くなる。


玄関の前に立つと声が聞こえる。

テレビの音だろうか。

いや、卓也はテレビなんて殆ど見ないはず。


どうしようか。

気は進まなかったが、玄関のドアに耳を当ててみた。

女の人の声がする。

艶かしい声。


『お前の声ってさ、いつもイヤラシイよな』


卓也の声だ。

「いつも」?


『卓也がイヤラしくさせるからだよ』


『な~に可愛い事言ってんだよ。

 虐めたくなるじゃん』


『あっ、だめ、そこっは…』


『お前本当にここ弱いよね~』


これでもう答えは出た。

今まで悩んでいた自分は何だったのか。


そう思った時、ドアノブに手を掛けていた。

鍵はかかっていない。

ゆっくりとドアノブを回す…。

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