第42話

それまで動かしていた手を止め、何かを考えた後、体を少し美咲の方に向けた。

美咲も澪に視線を合わせる。


「ごめんね、今日はずっと上の空で」


「なんかあったんだろうなとは思ったけど、聞くのもあれかなあって。

 だから、深く突っ込まないようにはしてた」


「うん、気付いてた。

 気を遣わせちゃってごめんね」


「そんな謝る事でもないっしょ。

 でも、澪が元気ないのは嫌だな。

 いつもの元気な澪がいい。

 …なんて勝手だね、ごめん」


「美咲が謝る事ないよ。

 ありがと」


少しの沈黙。

お互いに視線を1度そらす。


今度は先に口を開いたのは美咲だった。


「大丈夫?」


「……。

 今日ね、これから彼氏に会うの」


「え、じゃあ早く行かなきゃじゃん」


「ううん、待ち合わせ時間とか決めてないから。

 いつもと同じ、彼氏の家に行くの」


「そっか」


彼氏という単語に、少し胸が痛むのは何故だろう。


「この前ね、共通の友達から、彼氏が浮気してるっていうのを聞いたの。

 彼氏の同じクラスの子みたい。

 でも、確かめたりしなかったんだ。

 前にもそういうのあったから。

 彼氏を問い詰めて白状させてね、もうしないって言わせた。

 だけど、結局してるっていう…バカだよね」


「澪は…彼氏の事好きなの?」


「好き…なのかな、よく解らない。

 彼氏の気持ちも見えないし。

 先週珍しく向こうから会わないかって連絡がきた時は、あ~、うちらまだ終わってなかったんだ、って思った。

 1ヶ月くらい会ってなかったし、久し振りに会ったら少しは何か変わるかなって思ってるけど…どうだかね」


寂しげに、独り言のように話す澪を、美咲はどんな顔をしながら聞いていいのか解らなかった。

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