第41話

午後になっても、澪は相変わらずだった。

たまに顔を見てみると、不安そうな、困ったような表情を浮かべていた。


帰りのホームルームも終わると、美咲と澪は掃除を始めた。

特に話す事もなく、もくもくと掃除をしていく。

いつもはありさと一緒に帰るのだが、こんな時に限って用があるからと先に帰ってしまった。


掃除も終わり、後は日誌を久保に提出すれば帰れる。

日誌は澪が持っている。


「澪、日誌出しに行こう」


声を掛けられ、ちょっとの間の後に澪が口を開く。


「日誌…あっ、全然書いてない!」


うん、知ってはいたけどね。

敢えて聞いてみたんだな。

心の中でそう思いながらも、口にはしなかった。


「じゃあ、書いちゃおう。

 適当に書いとけばいいでしょ」


軽く微笑んでから言うと、席に着く美咲。

それにならって澪も席に着く。


先程まであんなに賑やかだった教室も、今は美咲と澪の2人だけである。

他の教室からの声も聞こえない。

窓の向こうから、運動部の掛け声が聞こえるくらいだ。


日誌を机から取り出し広げる。

筆箱からシャーペンを取り出し、さらさらと書いていく。

その動きを横から、頬杖をつきながら見ている美咲に気付いた澪が静かに微笑む。


「なあに?」


澪が悪戯っぽく言うと、美咲は我に返り、少し顔を赤らめた。


「いや、字が綺麗だなって」


「昔習字習ってたから、字にはちょっと自信があるんだ」


得意げに言う澪が、子供みたいで可愛かった。

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