第36話

制服のまま、ベッドに倒れ込んだ。

いろんな事が頭の中をぐるぐるする。


何かを考えたいけど、何を考えるべきか。

目蓋を閉じて浮かぶのは、まぎれもなく美咲の顔。

なんでこんなに考えてしまうんだろう。


不意に携帯が鳴った。

ブレザーのポケットから取り出す。


卓也からだった。

いつぶりだろう、向こうから連絡をよこすのは。


「…もしもし?」


「もしもし、今大丈夫?」


「あ、うん」


「最近会ってないっしょ?

 近い内に会わねえ?」


「…そだね」


「元気無くね?

 なんかあったん?」


「いや、そんな事ないよ」


「そう?

 まあ、いいや。

 来週の金曜とかどう?」


「いいよ、バイトも無いし」


「じゃあ、よろしく」


さらっときられた通話。

暫く画面を眺めたままでいた。


散々ほったらかしにしていたくせに、いきなり連絡をよこすのは彼の癖である。

解ってはいるけれど…。


共通の友達から、卓也が浮気をしているという事を聞いた。

卓也が通っている学校の、クラスメートらしい。

確かめようかと思った事はあった。

でも、敢えてしなかった。

その時は傷付くのは嫌だったし、別れるのも嫌だったから。


今の気持ちは…どうなのだろう。

彼の気持ちも、自分の気持ちもよく解らない。

曖昧なまま、今日まできたというか。


よくある話。



『最初はよかった』



とても楽しかったし、幸せだった。

それは嘘じゃない。

でも、気がついたら喧嘩ばかりで、会っても悲しかったし寂しかった。

一緒にいても、遠くに感じた。



―そう、よくある話―



とりあえず、会うだけ会ってみよう。

距離をおいてた訳だし、久し振りに会ったら気持ちも変わるかもしれない。

そう考えて、自分を納得させるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る