薄紅の君

第23話

「私が連れて行きます」

急に体が宙に浮いた。

違う、田山さんが抱えて…あ、これお姫様抱っこだ！

そういえば、卓也にもしてもらった事無かったなあ。

…って、そんな呑気な事を考えてる場合じゃないって。

嬉しいんだけど、痛みが酷いな。

あ、田山さんの首に腕を回しちゃった。

凄い近距離。

いい匂い。

いっそこのまま、時間が止まればいいのに。

周りの人達の絶叫が聞こえる。

…今、田山さんを独占してるのはあたしだけだ。

贅沢だなあ～。

みんなから恨まれるだろうか。

まあ、いっか。

保健室までの距離が、もう少し長ければいいのに。

…なんて、あたしは何を考えてるんだか。

この痛みだと、試合には出れそうにないな。

どうしよう、みんな優勝を目指してるし。

ありさも張り切ってたしなあ。

みんなに迷惑かけちゃった。

それにまさに今、田山さんにも迷惑を掛けちゃってる。

それにしても、まさか田山さんが1番最初に駆けつけてくれると思わなかったから、凄くびっくりしたな。

心配そうな表情をしてた。

先生が保険委員に頼んだのに、自分が運びますって。

男前と言うか、なんというか…。