第26話

土竜と珉珉が同時に立ち上がり、そのまま、何も言えず突っ立っている。

土竜は、蘭蘭をじっと見て、珉珉は、蘭蘭を見つめる土竜をじっと見つめていた。

崑爺は、立っている二人を見て、ふっと笑った。そして、また蘭蘭を見る。

「いや、この鈴鈴は、師父の子供ではない。」そう言って、目をつぶった。


珉珉と土竜は、立ったときと同じく、同時に座った。ふたりとも、やや放心状態だが、まず土竜が我に返った。

「待って。姉さまたちが、師父の子供?」

珉珉もびっくりして蘭蘭を見た。

「どういう意味?」

蘭蘭は、苦笑いをした。

「お前たちは、教主の言葉を聞いていたでしょう。龍弟は、最後の言葉まで全部覚えていて、私に教えてくれたじゃない。」

「え?でも、意味が全然わからなかったよ。」と珉珉が言い、土竜もうなずいて言った。

「教主は私を見て、三つつ子だと誤解してた。そして、明王朝は安泰だって。私も全然意味が分かんない。」

「そうだよ。教主って皇帝を恨んでるんじゃなかったのか。」と、珉珉も言う。


蘭蘭がため息をついた。

「教主は双子の兄を探して宮中に行ったのよ。いないとわかって出て行ったのよ。追い出された、という噂を自分で立ててね。」

「へ?どうして?あ、それに、その兄さんには、役目があるって言ってたけど、その役目って何?」と珉珉が聞くと土竜が、はたと気づいて言った。

「あ、そうか。そのお兄さんって、師父だったんでしょう。宮中で役目をもらったってことは、皇帝派だし、だったら、その双子の妹である教主も皇帝派ってことになるわ。」


珉珉は土竜をチラッと見た。

「ふん。双子のどちらも、皇帝派でよかったよ。」と言いながらも、土竜を言い負かしたくて、その鈍感な頭を必死で働かせた。

「え?でも。あ、そういえば、お父様、えっと師父は、教主が自分の双子の妹だって、ご存じなのか?」珉珉が、誰ににともなく聞くと、蘭蘭がため息をついた。

「知らない。というか、知りたくもないのでしょうね?」と崑爺を見る。崑爺はかすかにうなずいたが、目をつぶったままだ。蘭蘭が珉珉に言った。


「お父様は、確かに貧しい者たちにも分け隔てなく教えている篤志家だけど、」とチラッと土竜を見る。土竜は目を伏せていた。

「でも、役人たちとも懇意で、付け届けも欠かさない。今やすっかり、」と蘭蘭はそこで言葉を切り、挑むように顔を上げて、

「俗物よ。」と吐き捨てた。

「お姉さま!」と思わず珉珉が叫んだ。

「どうしてそんなことを言うの!」と珉珉が言うと、蘭蘭が、思わず、

「双子の妹のみならず、昔愛した女の顔も忘れるような人なのよ!」と言って、はっと口をつぐんだ。

しばらく間があった。


土竜が目を伏せながら、

「それは、母さんなのですね。」と、小さな声で言った。珉珉は何か言おうと口を開けたまま、しかし何も言えず、蘭蘭と土竜をかわるがわる見ている。

蘭蘭は、ふと立ち上がり、土竜の横に立ち、土竜の頭を抱きしめた。

「鈴妹、ごめんなさい。でも、きっと訳があると思うの。」そして、崑爺を見る。

「叔父上、教えていただけますか?」と言った。


崑爺は目を開けて、三人を見回し、最後にひたと蘭蘭を見た。そして口を開いた。

「お前たちの師父は、双子種(たね)だったんだ。」


「それはいったい?」と蘭蘭が言うと、崑爺が語り出した。



双子種とは、女に双子を産ませる役目のことだ。

その双子種になる条件とは、やはり、双子種の父親から生まれた、男女の二卵の、男であることだ。代々引き継がれていく。

頭言葉を教えたろう。双子の頭言葉は、非常に戦略に役立つ。特に一卵は感応力に優れ、その一卵の種をたくさん持つのが、双子種なのだ。それに選ばれると、毎日たくさんの女とまぐわされ、一卵の種をつける。

生まれた一卵は、すぐさま軍に引き取られ、軍の施設で育ち、頭言葉を使う戦士や間諜にされる。ただ、頭言葉は、使い続けると弊害が出る。それでも無理やり使わされるので、最後は発狂して死んでいくのだ。

最初は師父も、宮中での女たちとのまぐわいを、若さゆえ楽しんでいたが、一卵たちの行く末を知って愕然となった。それに、一卵を産んで、しばらくして、また産まされる女たちの苦しみも知った。

師父は悩み、役目を退こうとしたが、それは許されない。師父の種からできる一卵はみな優秀であったからだ。しかし、役目を降りる方法が一つだけあった。男と女の双子を産ませることだ。そうすれば、その生まれた息子に双子種の役目を引き継ぐことができ、お役御免となる。

しかし、お前たちの師父は、お役御免となる日を安穏と待ってる輩ではない。生家が金持ちであり、また人望厚く優しい性格ながら、狡猾なところもあるから、師父はあらゆるところに手を回し、賄賂を使い、見事に退いた。

最後のまぐわいの女が、鈴鈴たちの母親だった。

師父は、その美しい女に情けをかけ、宮中から逃げよ、と助言した。そして、双子を産んでも、双子だとは言わず、年子を生んだと言うのだ、と、いくばくかの金子を与えた。

鈴鈴の母親は、気丈な人だったのか、その通りにした。そして、年子の娘二人を育てているときに、鈴鈴の父と出会ったのだ。二人は夫婦になり、鈴鈴が生まれた。

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