第24話
第11章
土竜の姿を見て、姉たちは、嬉し泣きをした。土竜が少女の格好をしているのにも気づかないようだ。姉たちの後ろに、容姿端麗な二人の若者が静かに立っていた。
姉たちをかくまってくれた、この屋敷の主人は、4人をいたく気に入り、悪いようにはしないから、預からせてくれ、と崑爺に頼んでいた。4人も、この屋敷で暮らしたいようだ。家に帰っても、姉たちにはもう、父も母もいないし、拉致されたとあれば、どこにも嫁げない。もちろん、恋仲になった兄弟と離れるのも嫌である。主人は、4人の祝言もあげてやる、と言い、姉たちは頬を赤く染めた。
土竜は、姉たちがここで兄弟と仲睦まじく暮らす、と聞いて、本当に嬉しかった。嬉しいと素直に伝えると、姉たちは、また嬉し泣きをする。その二人を兄弟がそれぞれ、優しく抱いた。
感動の場面だったが、珉珉は、蘭姉さまが、今、天兄さまで良かった、と思っていた。もし、蘭姉さまの姿だったら、きっと、非常にややこしいことになってるだろう。蘭姉さま、悔しいかな、と思ったら、ちょっと笑えて来た。
(何笑ってるの?)と、蘭蘭の頭言葉が聞こえた。
珉珉は、蘭蘭を見る。蘭蘭も笑っていた。珉珉はあっかんべーをして、くすくす笑った。ふたりはそのまま、土竜と姉たちを残して、屋敷の庭に出た。
姉たちをかくまってもらえた屋敷は、さほど大きくはなかったし、豪奢でもないが、さっぱりとして、趣味が良い。庭も綺麗に整えられていた。
「いいところだね。」と珉珉が蘭蘭に言うと、蘭蘭もにっこりした。
珉珉が、急に真面目な顔になって、
「ね、お弟子さんはどうなった?」と聞くと、蘭蘭も真面目な顔になった。
崑爺が奥に行くと、元弟子は、無残な姿で横たわっていたそうだ。崑爺は、しばらく、弟子を助けようと手を尽くしていた。しかし、蘭蘭が行ったときは、もう、どうすることもできずに、あきらめていたようだった。
蘭蘭は、弟子の姿をまともに見ることが出来なかった。手練れたちを平気で殺してきたほどなのに、その蘭蘭にして、弟子の姿は衝撃であったのだ。
弟子は、唇のない口で、師匠に謝っていたそうだ。
「私は、切り刻まずにはおれなかった。小さい時から虫や小動物を殺してきた。戦士になれれば戦で手柄を立てられたのに、身体が弱く、誰も戦士として雇ってくれない。」
「それで、武器を作ろうと、わしの弟子になったのか。」と崑爺が言うと、弟子はうなずいた。
「私の作る武器が、誰かを切り刻む、と思うと、無性に嬉しかった。でも、やっぱり物足りない。なので、もっと切り刻む武器を、使った者さえ刻む暗器をと。でもそれで私の指はなくなり、もう何も作れなくなった。
死ねたと思っていたのに、私は助けられた。そこからもう、切り刻む欲望は抑えられなくなった。それで、」
崑爺は、おぞましいものを見るように、弟子を見て言った。
「双子たちを切り切り刻んだのはお前か。」
弟子は、鼻もない顔で、笑ったように見えた。
「金持ちの欲望につけこみました。楽しかった。」
「それで、なぜお前は、こんな姿に。」と崑爺が弟子を見る。弟子にはもう、耳も片腕も、足先もなかった。流れた血を押さえる布につつまれた見えない部分は、想像もしたくない。
「もう、あとは、自分を切り刻むしかなかったんですよ。舌は切らずに残しておいてよかった。こうして最後に師匠と話せたのですから。」
崑爺は、そこから、何も言わずに、弟子の首を切った。
蘭蘭は、それをじっと見ていた。
「こやつは自分で自分に復讐したのだ。切り刻むのが好きだと、こうなるぞ。」と、崑爺は誰にともなく言ったが、蘭蘭は、自分に言われたように思った。
珉珉は、その話を聞いて、蘭蘭を抱きしめた。庭は静かで、心地のいい風が吹き抜け、木々を揺らしていた。
それから、珉珉も、教主が土竜に倒されてからの言葉を全て、蘭蘭に伝えた。しかし、珉珉ほど、蘭蘭は驚かず、不思議がりもせず、なんだかもう知っていたような態度だった。
「教主はお父様のことを言ってたのかしら。」と珉珉がふとつぶやき、はっと顔を上げた。
「お父様、お母様は、きっとご心配してらっしゃるわ。」
蘭蘭は、心の底から呆れて、珉珉を見た。
「あんた、今頃それを言うわけ?」と、言ってちょっと笑った。
「大丈夫よ。叔父上が知らせてくれてるわ。」
「どうして知ってるの?!」と珉珉が驚くと、蘭蘭は今度は大きく笑う。
「あのね、教主の行方も逐一知ってたほどの人脈をお持ちよ。師父に知らせてないわけがないじゃない。私も何通か文を叔父上にお願いしたわ。それにね、明日にでも師父たちが来るのでは?と聞いてみたの。」
「え?お父様たちがいらっしゃるの!?叔父上どうおっしゃって?」
「お前の賢さには参るよ、って。」と言ってまた蘭蘭は笑ったが、急に真面目な顔になった。
「お父様に確かめなくちゃね。」と蘭蘭が切ないような声を出す。
「蘭姉さま、何かご存じなの?」と、珉珉は、思わず言った。
「賢すぎるのも、辛いものよ。」と蘭蘭が苦笑いをして、珉珉の頬を軽くつまんだ。
「でも、」と言いながら、蘭蘭は珉珉をじっと見る。
「その前に、叔父上に色々聞いてみるわ。」
珉珉は、驚いた。
「蘭姉さま、そんなことができるの?」目を丸くする。
「珉珉、ひとっ走りして、買ってきてほしいものがあるの。」と蘭蘭が言い、珉珉に金子を渡し、耳元で何か言った。
「わかったわ。」と、珉珉が屋敷を飛び出した。
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