第19話
第8章
翌朝、四人は出発した。
今度は荷物も最小限にし、軽功の速度を上げた。崑爺は何も言わないでどんどん進む。三人も黙ってついて行く。何か考えると一瞬で遅れてしまうから、軽功だけに集中していた。
食事と睡眠だけで休憩はない。珉珉は食べながら居眠りして、土竜に何度も起こされた。
珉珉は、髪の毛が伸びるたび切るのが面倒なので、もう、坊主頭に近いほど短くしていた。土竜も髪が伸びて、地毛でお団子が出来るようになっていた。
このふたりは、着ているものも顔も汚れていたが、蘭蘭はいつ見ても身綺麗で、絵に描いたような美青年のままである。崑爺も、いつもこざっぱりとしていた。土竜と珉珉は、どんどんみすぼらしくなっていくお互いを見て笑い合った。蘭蘭がそんな二人を見て呆れている。
確かに、土竜の雰囲気から、とげとげしいものがなくなっていた。女の子でいる時間が増えるにつれ、珉珉と蘭蘭への垣根も低くなっている。
「立ちションが出来ないのが辛かったけど、もう平気だ。」とこっそり打ち明けてくれたりもした。
「私も、この格好の方がラクだし、ずっとこのままでいたい。」と珉珉も短い頭髪を撫でながら、土竜に言う。
暖かい季節に向かっているはずなのに、少しずつ気温が下がっているのが、肌で感じられた。途中の街で着替えを買う。遠くに見える山々が、今まで見たことがないほど険しくなってきている。
あそこに行く前に姉さまたちを見つけられるだろうか、と、土竜と珉珉は不安を感じたが、崑爺の穏やかな姿を見れば、安心するのだった。蘭蘭は何を考えているのか、ときおり寂しげな表情をする。しかし、不安はそこからは感じられず、落ち着いて見えた。
野宿も多かったが、黄山に向かって行く先々でも、崑爺の人脈は豊富で、宿屋に泊まるときは、下にも置かないもてなしを提供されるが、崑爺は贅沢なことをすべて断っていた。
湯を使わせてもらい、土間の片隅で寝かせてもらえればいい、と。ただ、食べ物は豊富で、栄養のあるものがたくさん出て、弁当にも包んでくれた。
そして、何より重要なのは、情報であった。
崑爺は、あちこちに伝令を出しているようで、様々な者たちが、入れ代わり立ち代わり、崑爺を訪ねてきて、何かを告げて去る。そのおかげで、一行がどの辺りにいるのかがわかり、迷うこともなかった。それに、内実も徐々にわかってきたのである。
草原の、大きな木の下で、昼食を囲んでいるとき、崑爺が口を開いた。
「食べながらでいい。ちょっとした知らせが入った。」
あとの三人は、口をもぐもぐしながらうなずく。
崑爺がにやっと笑った。
「面白くなってるようだぞ。」
珉珉が饅頭をごくんと飲み込み、
「教主たちの一行ですか?」と聞くと、崑爺がうなずき、笑いながら土竜を見る。
「鈴鈴、お前の姉さんたちも、なかなかやるのう。」
土竜はびっくりして饅頭を落とした。慌てて拾い、
「姉たちに何か!?」と大声を出した。
「うむ。」と崑爺が真面目な顔になり、三人も居住まいを正した。
「いや、相手方の人数は、すでに話した通り、反皇帝派の手練れが14人、教主、そしてわしの元弟子の16人だ。そこに鈴鈴の姉が二人の、総勢18名。」
崑爺は、三人の顔を見る。敵が16人とわかってから、様々な作戦が立てられていた。今、何かが起こって、大幅な変更になるのだろうか。蘭蘭がもの問いたげな顔を向ける。
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