第17話

第7章


蘭蘭と珉珉が双子たちを送って、軽功で帰ってくると、3本の木の下には、まだ崑爺と土竜の姿はなかった。


金持ちの家では、かどわかされた娘たちを探して毎日泣き暮らしていた両親に、ひれ伏して感謝された。蘭蘭は、その親たちならまかせられる、と判断して、他の双子たちのことを頼んだ。

「お兄様たち、ゆっくりしてらして!」と双子たちに引き留められたが、ふたりは笑って首をふった。

「月の姉さまたちを救い出したら、皆さんで絶対寄って下さいね。お願いよ!」と双子たちに言われ、ふたりは、力強くうなずく。

「うん、無事連れ戻して、必ず戻って来るよ。」と、にっこり笑った。

金持ちの双子の親は、ふたりに金子(きんす:おかねのこと)や食べ物を山のように持たせ、ふたりがあっという間に見えなくなっても、ずっとお辞儀をしたままだった。



3本の木の下で、蘭蘭と珉珉は座った。もう、日も高くなっている。

「珉珉、頭言葉で言った事は、本気なの?」と蘭蘭が聞く。珉珉は赤くなった。

「本気よ。でも、」と珉珉は下を向いた。

「土竜は、姉さまのことが好きだわ。」珉珉の目に涙がたまる。

蘭蘭は、珉珉の頭を抱いて、小さく笑った。

「男の子は皆、私のことが好きなの。でもそれは、はしかのようなもので、ある日熱が下がるのよ。そして、横にいる女の子が大事なんだって知るの。」

珉珉は、姉を見上げた。

「本当?」


蘭蘭は珉珉の頬に自分の頬を付けた。

「本当よ、可愛い珉珉。」

「でも、もし土竜が私に気づかないで、ずっと姉さまのことが好きだったら?」と珉珉が聞くと、蘭蘭は真面目な顔になる。

「もしそうだとしても、私は土竜には興味ないわ。私はお金持ちに嫁ぐのよ。天健がダメでも、もっとお金持ちが他の街にもいっぱいいるし、みんな私に夢中になるわ。土竜なんて、顔が可愛いだけじゃない。」

こほん、という咳払いが聞こえ、蘭蘭は黙った。

顔をめぐらすと、屋敷の方角から、崑爺と土竜が、軽功でやってくるのが遠くに見えた。

土竜に聞かれたかしら、と蘭蘭は思ったが、ま、いいわと考える。それにしても、珉珉は、どうしてこんな貧乏人がいいのだろう、理解できないわ。蘭蘭は肩をすくめた。


おもむろに珉珉は立ち上がり、

「土竜には内緒よ。」と蘭蘭に言って、昆爺と土竜に手をふった。

あっという間に、ふたりはやって来て、珉珉と蘭蘭にうなずいた。

「いかがでしたか?」と蘭蘭が聞くと、崑爺は、

「まず食事にしよう。」と座った。


珉珉が、金持ちの双子の家からもらってきた豪華な食事を並べる。酒まであった。崑爺は、

「酒は捨てろ。」と、捨てさせた。

食事が終わり、蘭蘭がいれた金持ちからもらった茶を飲みながら、崑爺が屋敷のことを教えてくれた。


「腕が立つ者も少しはいたが、手練れは全くいない。皆、教主と呼ばれるあの預言者について行ったらしい。わしと鈴鈴が少し暴れてやったら、皆おとなしくなってな。中で一人口の軽い者がいて、そいつが聞かないことまでべらべらしゃべり出した。綺麗な顔をしたまだ若い女でな、お前と教主では、どちらが綺麗だ、と聞いてやったんだ。」



若い女は、

「それは、」とちょっと口ごもったが、きっと顔を上げ、

「いい勝負だと思いますよ。」と言いながら、挑むように周りの者たちを見た。土竜に器用に縛られ座っていた者たちが、小さくうなずく。それに勇気を得たのか、若い女はどんどんしゃべり始めた。

「そりゃあ、みな教主様を崇め奉ってるけど、正直、結構なお歳だと思います。美貌を保つのに必死だわ。」と、くすっと笑った。


「それは、例の双子たちの身体の一部分のおかげか?」と崑爺が聞くと、女は首をふった。

「そんなものは、まやかしですよ。金持ちは妙薬だ秘法だってありがたがってますがね。教主様は、技をお持ちなのでいつまでも若いけど、それはご自分だけのためで、人には施せない。でも、教主様は、私は双子を食べてるから、若さと美貌が保っているのだ、とあの顔でおっしゃるので、ものすごく説得力があって、金持ちは、どんどんお金を出すんですよ。」


双子を食べる、という言葉を聞いて、土竜は戦慄が走った。

「では、双子の話は、作り話なのか。そんなウソのために双子たちが連れ去られ、無残な姿に!」と思わず叫んでしまった。女はちらっと土竜を見る。土竜は姉たちに似ているのを隠すために、顔に布を巻いていた。

「作り話かどうかはわかりませんよ。確かに双子には神通力があるし。その力を利用して、教主様は、もっと強くなるつもりだそうです。」


「再び、皇帝に取り入ってか?」と崑爺が言うと、女は小さく鼻で笑った。

「まさか。あんな追い出され方をしたのに?ふん、宮中に行くってのは、デタラメですよ。私達をだまそうとしてね。教主様は、私達が邪魔になってきたんです。」と若い女は下を向いた。

「最初は、金持ち目当ての宗教団体だったのですよ。でも、あいつらが現れて。」

崑爺は、土竜に口をきくなと目配せして、若い女にしゃべらせた。

若い女は、悲しげな顔になった。

「元々、教主様は修行を積んでお強かった。教主様に憧れて双竜教に入った私達の様な者にも、武芸を教えてくれた。ま、ものにはならなかったんですけどね。」と自嘲する。

「そこに、反皇帝派のやつらが、教主様が宮中から追い出された預言者だという噂を聞いて現れたんです。皆、おそろしく腕の立つものばかり。」

若い女はフッと息をついた。

土竜はたまらず、

「その中に、親指のない者はいたか?」と聞くと、女は首をふりながら、

「私は知らないけど、あんたたちはどう?」と周りの者に尋ねた。一人がぼそっと、

「親指どころか、指が全部ないのがいるじゃないか。」と言ったので、崑爺が息を飲んだ。

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