第13話

第5章


皆を、食卓の席に座らすと、崑爺はゆっくりと語りだした。

「1年ほど前から、預言者が率いる宗教団体が徐々に力をつけていると漏れ聞こえていた。貧しいものの数を頼むのではなく、金持どもを相手にしているそうだ。若さの秘法を与える、というのが、そこの売り文句らしい。」

「叔父上も、その秘法をご利用なさったのですか?」と蘭蘭がにっこりして言う、

「嬉しいことを言うでない。これは、修業のたまものだ。お前たちもきちんと修業を積めば、その若さと美能を保てるぞ。」と崑爺はにやりと笑ったが、すぐまじめな顔になった。


「金持から寄付が入るので、その宗教団体は、どんどん大きくなっていった。しかも、宮中には知られずにな。」

「その預言者は、宮中を追われたと聞きましたが。」

「そうだ。皇帝に甘言を吹き込んだが、幸い腹心がしっかりしており、そやつを追放した。しかし恨んだそやつは、宗教団体を作り、報復を狙っているらしい。

この宗教団体の名は、双竜(そうりゅう)教という。」と、崑爺は、傍らの紙と墨を取って、その名前を書いた。

三人はびっくりする。鈍感な珉珉でさえ、双子の私たちと土竜だわ。とその達筆な字を見ながら思った。


「叔父上、その預言者の名は?」と土竜が聞くと、崑爺は、筆を持ったまま、一瞬躊躇したが、紙に、「河華琳(コウ-カリン)」と書いた。

「え?女性?」と土竜が驚きの声を出し、蘭蘭は、

「師父と何か関係が?」と声を震わせた。

崑爺は、肯定も否定もしなかった。ただ黙って三人を見た。

「お前たち、姉二人を助けたければ、こやつと戦わねばならぬ。できるか?」と静かに言った。

三人は下を向いていたが、珉珉が顔を上げた。

「師父とは、関係はないと思う。あったとしても、今の師父には関係ない。」

「そうだね、龍弟。叔父上。我らは、戦います。」と蘭蘭が言い、土竜もうなずいた。


昆爺は、うむうむとうなずき、

「お前たち、水の技は使えるか?」と三人に聞くと、蘭蘭が言った。

「師母に、一度だけ教わりました。」

家を出る日に、風の技のあと、蘭蘭と珉珉が師母から教えてもらっているが、蘭蘭も型を覚えているだけで、練習はしていない。珉珉はかろうじて覚えて練習もしたが、身についていなかった。それを言うと、

「暗器を使ってくるので、風も大事だが、華琳は炎の技を得意とする。対決するのなら、水の技を体得しなければな。」

と、昆爺が言い、おもむろに立ち上がった。


三人も立ち上がる。若者たちの礼儀正しさに、昆爺は満足げにうなずき、

「今、ここで教えるのもいいが、時間がもったいない。道々教えよう。」と言うので、三人はまたびっくりした。

「まさか、ご同行願えるのですか?」と蘭蘭が言うと、昆爺はうなずいた。

「弟子の暗器のことも知りたいのでな。それに、わしがいると色々便利だぞ。」とにっこり笑うので、蘭蘭は、

「便利だなんて、恐れ多すぎます。」と、声が小さくなった。


「叔父上がご一緒だと、こんなありがたいことはないです。」と、珉珉は素直に言った。もう、この率直さを我慢するのはやめようと、珉珉はひそかに決心していたのだ。

土竜も深く頭を下げる。

「叔父上様、どうか私達にお力を貸してください。」

昆爺は、皆を見回し、

「よし。では用意をするから、茶の道具を片付けてくれ。」と、さっさと支度にとりかかった。

三人で、茶の片づけをする。美しい道具だった。無事帰って来て、またここでお茶をご馳走になろう、と蘭蘭は思った。


珉珉が、崑爺の荷物を持った。

街を出ると、荒野が広がっていた。

「ついてきなさい。」と昆爺が軽功をいきなり使った。三人は物も言わず必死でついて行く。

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