第6話
使用人たちが、湯を持って入ってきた。
蘭蘭が、布でさっと土竜の顔を隠す。
師父が、軽々と土竜を抱き上げた。ぐったりとした土竜を横抱きにして、ゆっくりと部屋を出る。
「ついてきて。」と師母が、使用人たちに言い、師父の後に続いた。
師父は、客用寝室に土竜を連れて行った。使用人たちは驚いたようだが顔に出さない。
寝台の絹の布団の上に、血と泥で汚れた土竜を横たえる。
「お湯はそこに置いて。あとは私たちがするわ。新しい着替えを用意しておいて。」と師母が使用人に言う。
師父が
「私は、役人に話をしなければならない。土竜を頼むぞ。」と、師母と娘たちに言って、出て行った。
蘭蘭が、お湯で、土竜の顔をもう一度拭く。
「本当に綺麗な顔だわ、この子。」と蘭蘭がごく普通に言う。
「土竜母様は、綺麗だったし。」と珉珉が言うと、師母が、
「あら、そうだったかしら。」と言ったので、珉珉は驚いた。しかし、驚きは顔に出ない。
「土竜のお母さんはともかく、お姉さまたちは綺麗だものね。」と、蘭蘭が言うと、師母はうなずいた。
「ふたりとも無事ならいいんだけど。」
「双子じゃないってわかれば、返してくれるんじゃない?」と珉珉が言うと、蘭蘭がため息をついた。
「そううまくいけばいいけど。」
「しっ、静かに。土竜が目を覚ましそうよ。」と、師母が言ったので、双子の姉妹は黙った。
土竜は、うーんと小さく声を出して、うっすら目を開けた。
目の前に、三人の女がいる。綺麗な人ばかりだ、と思って見てたら、ひとりはよく見る顔だ。
「珉珉?」と、目をぱちぱちと瞬きしていたら、父と母の血だらけの姿が、突然浮かんだ。
土竜の目が見開き、口も大きく開いた。その口から悲鳴が出そうになったとき、
「土竜、しっかりしなさい!」と、師母が、土竜の頬を軽く平手打ちした。
軽くと言っても、師母の内功も深いので、土竜の頬は真っ赤に腫れ、唇が切れている。
その痛みで、土竜は何があったのか、瞬時に悟った。ここがどこで、寝かされている布団も今まで味わったことのない柔らかい感触だ、というのもわかった。
そして、姉たちはいなくなり、父と母がぼろ雑巾のようにズタズタになって殺されていたのも思い出した。
土竜の目から、ぽろぽろと涙がこぼれて止まらない。三人はもらい泣きをした。
師母が寝台に座り、土竜をそっと起こして、抱きかかえた。頭をゆっくり撫でる。
「土竜、しばらくここでいなさい。師父が役人と話をつけに行ってるわ。お姉さまたちもきっと見つかるわよ。」
あやすように、師母が語りかける。土竜は放心状態で、師母に抱かれていた。
自分たちの母親に抱かれている、土竜の可愛らしい顔を、珉珉は無表情に、そして、蘭蘭が冷たい目で見ていた。
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