第96話

人の心は虚ろいやすいものだと、薫は思っている。

永久の愛なんて、そんなものは本当に存在するのか、とも。


結婚は紙切れ上のものに過ぎない。

子供を授かり、育て上げる事が女の幸せとも思わない。

『幸せ』というものは何だろう。


「薫の目は、綺麗だけど寂しさがあるね」


不意にそんな事を言われた薫は、驚きながら透子と視線を合わせる。


「寂しいの?」


直球を投げられ、上手く受け取る事が出来ない。


「まあ、寂しい…かな」


そんな事はないと言えば嘘になる。


「じゃあ、今夜はあたしに甘えていいよ」


透子の伸ばした手が、薫の頬に触れる。


「今夜はあたしが貴女の傍にいてあげる」


柔らかい眼差しが、薫をしっかりと見つめる。


「それはどうも」


透子は体を起こすと、静かに薫を抱き締める。


「ちょっ、何ですかいきなり」


「肌と肌が触れ合うと、安心するんだって。

 この前テレビでやってた」


透子の首元に、薫の顔が触れる。

急に恥ずかしくなり、顔が赤くなったのが解った。


「も、もう大丈夫だから!」


「照れなくてい~の。

 ここにはあたしらしかいないんだから。

 誰に見られてる訳じゃないんだし」


透子の口唇が自身の耳に近いところにあり、柔らかい声がダイレクトに伝わってくるのと、吐息がくすぐったい。


「そんなに緊張しないで大丈夫。

 襲ったりしないから」


更に恥ずかしくなる。

鼓動が速くなったのは何故だろう。


「ほら、もっと体を楽にして。

 凄い強張ってる」


緊張のしすぎで、体はとても固くなっている。

と、頬に柔らかいものが触れた。


「少しは緊張解けた?」


彼女の口唇が、頬に触れたのだった。


「も、もう本当に大丈夫だから…」


心臓がドクドクと騒がしくて。

あらぬ事を考えている自分が恥ずかしくて。

期待をしている自分に言葉もなくて。


「じゃあ、離れたら?」


体を離そうと透子の肩を押すと、彼女のバスローブがはだけた。

緩く纏っていた事もあり、するすると肌を伝い、大きな膨らみの胸が露になる。


「わっ、ご、ごめんっ!!」


バスローブを直そうとすると、その手を掴まれた。

そして、その手を露になった自身の胸に触れさせる。

柔らかな感触。

ハッとして、慌てて手を離す。

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