第94話

風呂から上がると、洗面台に新品の下着が用意されていた。

ありがたく使用させていただいた薫は、濡れた髪を乾かし、透子と同じようにバスローブを纏い、彼女の元へ。

テーブルの上には、彼女が頼んでおいてくれた料理が並んでおり、その近くには冷えた白ワインが、氷がたっぷりと入ったワインクーラーの中に入っていた。


「お酒、飲むでしょ?」


「うん、ちょうど飲みたいなって思ってたところ」


彼女はソファーに座りながら、煙草を吸っている。

薫も彼女の隣に腰を下ろした。


「好きなだけ食べて」


「一緒に食べよ。

 取り分けるからさ」


薫がサラダを取り分けたりしている間、透子は用意されていたグラスにワインを注ごうと試みる。

が、コルクを上手く開けられず、手こずってしまう。


「今やるから」


取り分け終わった薫は、透子からワインが入ったボトルを受け取り、コルクにタオルを巻き、ゆっくりとコルクを回しながら引っ張っていくと、間もなくして開栓。

グラスに注ぐと、綺麗な透明がグラスを彩った。


「何に乾杯するの?」


「さあ?何でもいいんじゃない?」


「じゃあ、透子さんに襲われかけた事でいいや」


薫の言葉に、透子はクスリと笑った。


外は相変わらず雨。

今日初めて逢った人と、こんな風に夜を過ごすなんて、誰が予想出来ただろう。

朝の星座占いにだって、『今日逢った人と長い時間を過ごすでしょう』なんて出ていなかった筈で。


普段、誰かと接している時とは違う雰囲気。

『好きな人の好み』も、『結婚の有無』も、『将来の事』も聞かれない。

そう、面倒な事が何もないのだ。


何かを質問される訳でもないし、しつこく連絡先を聞かれる訳でもない。

彼女はそれらには興味はないようで、今のところ質問してきたのは『ねえ、本当に男じゃないの?』


ここまで性別を尋ねられたのも初めてだったし、過干渉ではなくドライなところが、何となく心地いいなと薫は思った。

茜とはまた違う性格。

見た目だけではなく、中身も見ても、彼女は人に好かれるのではないかと思うが、それは口にはしなかった。

きっと透子の事だから、『解らないよ』と言いながら、眉毛すら上げる事もしないだろう。

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