第90話

彼女の舌が、薫の舌を捕らえる。

熱い舌がねっとりと、薫の舌に絡まり、咄嗟に息を漏らしてしまった。


やっと解放されると、彼女は満足げな笑みを浮かべる。


「その気になってきたでしょ?」


ドレスの裾を捲る。


「あたしはさっきあなたを見掛けた時から、その気になってた」


体を起こそうとすると、彼女は再び薫の首に腕を回す。


「ここで逃げたら、男としてどうなの?」


薫は驚きの顔になる。

彼女は薫を男だと勘違いしていたのだった。


「わ、私男じゃないですって!」


「何でそんな嘘つく訳?」


「嘘じゃないってば!」


「だから、謙遜とか遠慮とかいらないから」


そう言うと、彼女は右手で薫の肩を撫で、そのまま腕を撫で下ろしていく。


「まあ、謙虚なのはいいとは思うけど。

 強引よりはいいし」


腰を撫でると、ゆっくりと焦らすように薫の股間に手をやる。


「我慢するのが好きなの?」


あると思って触ったのだろうが、残念ながらどんなに触ったとしても、期待しているそれがある訳がない。


「………あれ?」


「ちょ、何処触ってんのさ!」


「何でないのよ!」


「何探してんだよ!」


「あれに決まってるでしょ!」


彼女の言葉からして、本気で薫を男と思っているようだ。


「あなたのやつ、どんだけ小さいの!?」


「んなもん、ある訳ないだろ!

 私は正真正銘女だ!」


「胸ないじゃない!」


「大概失礼だぞ!?」


「女だって証拠は!?」


「あ~っもうっ!

 胸触れよ!」


「……?」


「ささやかな胸があるだろ!」


「ささやか過ぎて解らない!

 ちょっと脱ぎなよ!」


「わっ、やめろってば!」


服に手を伸ばした透子の手を振りほどこうとしたのだが、バランスを崩した薫はベッドに寝転ぶ形に。

そのタイミングを逃すまいと、透子は薫の上に跨がった。


「無駄な抵抗はやめなさい!」


「意味のある抵抗だよ!」


この人、何でこんなに力強いんだ!?

そう思ったのも束の間、両手首を押さえつけられてしまった。


「わ~っ、服を脱がすな!」


「ちょっと興奮してきちゃったじゃない!」


「すんな!

 む、胸を触るな~っ!」


「……胸無いのにブラしてる。

 昔流行ったブラ男?」


「んな訳あるか!

 私は女だって言って…っ」

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