第89話

「ん~、お酒は一緒に飲みませんけど、ふらふらしてらっしゃるし、このまま放ってしまうのも怖いので、ホテルまでお送りしますよ。

 ロビーで待ってて下さい」


そう言うと、彼女は少しだけ笑った。

友達に別れを告げると、彼女が待つロビーへ。

歩いてホテルまで行くつもりだったが、「歩くの面倒」と言うので、仕方なくタクシーを使う事に。


到着したホテルは、有名な高級ホテルだった。

たまにテレビでも紹介される、星つきのホテルだ。


「じ、じゃあ、私はこれで…」


「ごめん、ちょっとふらつくから支えてくれる?」


言い終わるよりも早く、彼女は薫の腕に自身の腕を絡ませた。

胸元が開いてる故、豊満な胸の上部がよく見えるし、心なしか彼女は薫の腕に胸を押し付けているようにも感じた。


こうなってしまったら、諦めるしかなさそうだ。

彼女からカードタイプのルームキーを受け取り、ゆっくりとエレベーターに乗り込んだ。


最上階の1つ下の階で降り、部屋の番号を探し、鍵を解除した。

ドアを開ければ、これまた高級そうな品々で飾られていた。


「このままベッドまで連れてって」


そろそろ解放していただきたいのだが、それを口に出せそうにない。

苦虫を噛んだような顔をしながら溜め息を1つ吐くと、ベッドルームへと向かった。


乱暴に履いていたヒールを脱ぎ捨てると、彼女はベッドに座った。

そして、薫を見る。


「もう大丈夫ですね。

 私は帰りますから」


「折角部屋まで来たのに?」


「だから、お酒は一緒に飲みませんって」


「お酒の話じゃないわよ」


近くにいた薫の右手を掴むと、勢いよく自分の方へ引き寄せた。

いきなりの出来事に対応出来る筈もなく、薫は彼女の上に覆い被さる。

顔を上げれば、彼女の顔が間近にあった。


「あなたもそのつもりでしょ?」


「ち、違いますって!」


全くもって誤解だ。

そんなつもりなど毛頭ない。


「謙遜しなくていいよ。

 大丈夫、誰も来ないし」


「いやいや、ちょっと話を聞い…っ」


口唇を口唇で塞がれてしまった。

アルコールの香りを、はっきりと感じた。


彼女を引き離そうとするも、彼女は薫の首に両腕を絡ませ、逃げられないようにした。

必死に首を動かそうとするも、それすらも叶わない。

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