第88話

「結婚式って面白くないよね」


煙を吐きながら、まるで独り言のように透子が言った。

この場に自分と彼女しかいない訳だから、自分に向けて発せられたのだと解釈する。


「面白いか、面白くないかと聞かれれば、面白くはないですね」


「新郎新婦の生い立ちだとか、馴れ初めだとか、両親への感謝の言葉とか、別にそんなん興味ないもの。

 2人のいちゃついてるところを大勢に見せびらかして、何がそんなに嬉しいんだか」


そう言われてみればそうかもしれないと、薫は彼女の言葉に納得し、頷いてみせる。


「今日だって別に来たくはなかったけど、旦那の付き合いで参加せざるをえなくてさ。

 当の旦那はさっさと帰っちゃったけど」


彼女を見てみる。

綺麗に施された髪に、品の良さそうなドレス。

高価であろう宝飾品に、先程のバッグ。

頭の先から足の先まで、全てがハイブランドで飾られている。

金持ちの妻なのだろうか。


「低スペックの男の人達に声を掛けられるだけでも不愉快なのに。

 旦那がいるって言ってんのに、お構い無しに口説いてくるし。

 そんなあたしを見て、周りの女達はこそこそ話してて。

 あ~あ、来るんじゃなかった。

 料理も大した事なかったし、いい事なんてありゃあしない」


眉毛を逆ハの字にしながら、気だるそうに言う。

そんな彼女を、薫は苦笑いを浮かべながら見ていた。


「散々だったんですね」


「散々だったよ、本当に。

 もう懲り懲り。

 2度と参加なんかしない」


そう言うと、吸い終わった煙草を灰皿に捨てた。

薫も煙草を吸い終わり、吸殻を捨てる。


「あなた、戻るの?」


「戻りますけど、もうちょいしたら帰ります。

 二次会も誘われたけど、面倒臭い事になりそうなんで」


「あたし、近くのホテルに部屋を取ってるの。

 部屋からお酒頼んで飲むつもりなんだけど、あなたも来る?」


「初めて逢った人間を、容易く部屋に入れるのはよろしくないですよ」


薫は困ったような笑みを浮かべる。

ほんのりと彼女の口から、アルコールの香りがした。


「いいじゃない、付き合って?」


「あはは~、困ったなあ。

 一応、友達に挨拶はしなきゃですし」


「じゃあ、あたしそこのロビーで待ってるから行ってきて」


「ちょ、本気で言ってるんですか?」


「あたしが嘘ついてるように見える?」


少なくとも、嘘はついていないだろう。

些か酔っているのは、間違いはなさそうだが。

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