第86話

しのぶの言葉に各々が反応する。


「うちの母親の知り合いが、民宿やってるんだ。

 小さい旅館だけど、いいところだよ」


「いいですね、お泊りしましょうか。

 お2人は大丈夫ですか?」


ゆいの問いかけに、先に頷いたのは茜だった。


「王子様はお泊りは無理ですか?」


「無理はなさらない方がいいですよ」


「予定を確認してみますね。

 確認が取れたら、リンに連絡しますから」


「…薫さん、鈴ちゃんの連絡先ご存じなんですね」


「ええ、まあ」


美鈴以外の2人は、このピリピリとした雰囲気に気付いていたが、当の美鈴はマイペースにビールを飲んでいる。


「ゆいちゃん、あたしと連絡先交換しない?」


「あ、今アタシも同じ事思いました」


それぞれが騒がしくしている中。

美鈴はぼんやりと海に行く事を考えていた。


新しい出逢いはあるだろうか。

素敵な人だといいな。


自分を大切にしてくれる人がいい。

一夏限りは嫌だ。

ちゃんと関係が続くといいのだけど…。


薫さんやしのちゃんの水着姿、想像出来ないな。

2人とも格好いいから、沢山の人に囲まれそう。

モテモテだろうな。


「リンちゃん」


不意に名前を呼ばれた。


「あ、えと、茜さん?」


「そう、よろしくね。

 リンちゃんの事は、薫から聞いてるよ。

 色々大変だったんだってね」


「そうですね…。

 嫌な事もありましたけど、薫さんがけちょんけちょんにしてくれましたから。

 相手の人は他にも不祥事があったみたいで、ちょっと前にクビになったみたいです。

 それ以上の事は知りませんが、終わった事なので知る気もないです」


「この薫が、目の色を変えるなんてびっくりしちゃった。

 いつもの薫なら、ここまで本気になる事はないんだけどね。

 久々に逢った薫は、何処か変わったかも。

 リンちゃんのお陰かな」


「あたし、何もしてませんよ?」


「何かをしたとか、しないとかじゃないと思うよ」


茜はそこで言葉は区切ると、ビールを飲んで一息入れた。


「なかなか素直じゃないし、気難しいところもあるけど、悪い人間じゃないからさ。

 良かったら仲良くしてあげてね」


茜はにこっと微笑む。


「あ、勿論あたしとも仲良くしてね」


その言葉に、美鈴は笑顔を浮かべた。

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