第85話

「そういえば、夏休みがどうでこうでって言ってなかったっけ?」


ゆいの言葉に、美鈴は忘れていたその事を思い出す。


「そうそう、海かプールに行かない?」


「いいよ、海もプールも好きだし。

 水着買いに行かなきゃ」


美鈴達の話に食い付いたのは。


「何々、海かプール行くの?」


「そうなの~。

 休みの申請は出したし、たとえ駄目と言われても、アタシは(力ずくで)通すけど」


「いいなあ、ワタシも行きたいな」


「お、いいねえ。

 たまにはしのちゃんと遊びたい」


3人で盛り上がる中、薫達は話を遠巻きに聞いていた。


「ですってよ」


「そっか、良かったじゃない」


「あたしらも行く?」


「やだよ、あっついもん」


等とこっそり話していると。


「王子様と茜さんも一緒にどうですか?」


まさかのゆいの発言に、美鈴と薫は目を見開く。


「い、いや、私は暑いの苦手だから遠慮す…」


「行く~!」


「ちょ、おい、茜!」


間髪入れずに、茜が元気よく返事をする。


「あたしだって、たまには太陽や海を欲する時があるんだって」


「嘘つけ!」


と、茜が薫の耳元で囁き始める。


「リンちゃんの水着姿、あのしのぶって人が独り占めしていいの?

 それにリンちゃん綺麗だし、男どもが放っておかないだろうね」


「そんなん、私の知ったっこちゃないし。

 てか、私は別にリンの事、どうこう思ってないからね」


「ふ~ん?

 そう言う割には、最近リンちゃんの話が多いと思うけど?」


「それとこれとは関係ないだろ!?」


2人でこそこそ話しているの見たしのぶは。


「無理しないで大丈夫だからね?」


確実に薫の目を見ながらしのぶは言った。

何だか面白くない薫は。


「いえ、私達もお邪魔じゃなければご同行させて下さい。

 車の運転はお任せあれなんで」


にこやかに言う薫を見た茜は、吹き出しそうになるのを必死に抑える。


「休みの都合とか大丈夫なの?」


「うちの社長は融通が利くんでご心配なく」


しのぶも薫もにこやかだが、両者の背後には龍と虎が見える。

物言わぬ戦いを面白がっているのは茜とゆいだけだ。


「薫さんもしのちゃんも、仲いいね」


何とも場違いな美鈴の発言に、堪え切れなくなった茜は吹き出した。

ゆいは溜め息をつきながら、少し温くなったビールを喉に流し込む。


「とにかく、みんなの予定が合う日を照らし合わせないと」


ゆいがその場を纏めようとすると。


「どうせなら、一泊していかない?」

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