第83話

「いやはや、薫と逢うの久々だね~」


夕方、帰宅する人達の波の中、薫と茜は並んで歩く。

傍から見れば、カップルのようだ。


「茜の仕事やら、ヲタ活が忙しくて、なかなか逢えなかったもんね。

 さてさて、何処に行こっか」


こうして2人で逢うのは、1か月ぶりくらいだ。

仕事が終わり帰ろうと会社を出てすぐ、茜から着信があり、『仕事で薫の会社の近くまで来たんだけど、久々に飲まない?』との事で、現在に至る。

幸い、今日は電車で会社に行った事、明日は休みだし予定もないので薫も心置きなく飲める。


「お腹空いてるんだ~。

 この辺にいい店ない?」


「ん~、駅の方にあるっちゃあるけど」


しのぶの店が頭に浮かぶが、美鈴を抜きにして行っていいものかと考える。

自分に敵対心を持っている感じだが、果たして普通に接客してくれるだろうかと、一抹の不安を覚える。


「あれ、リン…」


良さげな店を探すべく、辺りをきょろきょろしていると、斜め右方面に美鈴を見つけた。

当然ながら、美鈴は薫に気付かずに歩いている。


「どしたの?」


「ほら、前に話した子」


「あ~、(からかい甲斐のある)リンちゃんね。

 薫が気になってる子でしょ?」


「別に気になってないって」


「声を掛けなくていいの?」


「別にいいよ」


と言いつつ、気にならない訳でもなく、視線は美鈴の後ろ姿を追い掛ける。


「あ、お店に入っちゃった」


「あそこはリンの行きつけの店なんだ。

 安いし、料理も美味いよ。

 店長はちょ~っと怖いけど」


「よっしゃ、あの店にしよう」


「え、まじで!?」


「駄目な理由でもあるの?」


「いや、ほら、知り合いが近くの席で飲んでたら、ゆっくり飲んだり出来ないんじゃないかなって」


「あたしはリンちゃんがどんな子か気になるもん。

 薫が助け舟を出すくらいの子だからね~」


「だ~から、あれは私も腹が立ったから、一緒に仕返しをしただけだって」


「その割には、あれやこれやお助けしたんでしょ?

 ドライな薫には、すんごく珍しい事だもん。

 俄然、リンちゃんに興味が出たよ。

 薫がリンちゃんにぞっこんなんだし」


「ちょ、誰がぞっこんだって!?

 あ、待っててば!」


薫の言葉も無視して、茜はずんずん進んでいく。

仕方なく、薫は茜を追い掛けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る