第73話

「あんたさっきからウザいんだけど!

 つ~か何なの!?

 食事の邪魔しないでよ!」


「それは失礼しました、お嬢さん」


「あ、いえ、そんな…。

 声を荒げてしまってごめんなさい…」


薫が女性に声を掛ければ、女性はすぐに頬を赤めながら声を細める。

その反応に対し、美鈴は女性の口の中に花瓶の水をぶち込みたくなった。


「ところで山田さん、今日は奥様と一緒なんですね」


一瞬にして、山田の顔から血の気が引いた。


「こんな若くて素敵な人が奥様だなんて、羨ましい限りです」


山田は口を開けたまま、目を見開きながら薫の顔を見る。


「やだあ、まだ結婚してないですよう」


女性は照れながら、薫んの言葉に答える。


「えっ!?

 そうなんですか?

 僕は山田さんは既に結婚していると聞いていたのですが…」


薫の言葉が、その場を凍らせた。

それまで頬を赤めていた女性の顔色が、みるみる内に変わっていく。


「もう結婚されて結構経つんですよね?

 僕の知り合いが、山田さんが奥様と一緒に歩いてる所を見かけたと聞きましたが…。

 おかしいな、見間違いだったのかなあ」


「な、何を言ってるんだ。

 俺は、ま、まだ結婚なんてしてない!」


必死な面持ちで噛み付いてみる山田だったが、薫はそんな山田を見てニヒルな笑みを浮かべる。


「…そうでしたか、それは失礼しました。

 僕の会社のある人が、貴方と関係を持って間もなく、貴方が家庭を持ってるという噂を耳にしましてね」


再び山田の顔から血の気が引く。


「その人とも、結婚するおつもりだったんですか?

 山田さんは一夫多妻なんですかねえ」


口をパクパクさせたまま、力のない目で薫を見つめる山田。


「バレた瞬間、すぐにその人を切り捨てたそうじゃないですか。

 その人、あの後どうなったかご存じないでしょう?

 心を病んでしまって、自殺未遂までしましたよ。

 そして今もまだ、心は病んでしまっているまま」


額から汗が流れているが、拭う事もせず、体を強張らせたまま、山田は微動だにしない。


「傷付いたその人の事、何とも思わないんですか?

 非道というか、腐れ外道というか…」


「あ、遊びを本気にした彼奴が悪いんだろ!」


「そもそも遊びで人の心と体を、弄ぶのは如何なんですか?

 女性は貴方の捌け口の道具じゃない」


ピシャリと薫が言い返す。

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