第4章/え、こんな状況ってドラマとかそういう中の話じゃないの?

第65話

待ち合わせの時刻より、少々早く到着した薫は、店の近くにある喫煙所で、煙草を吸いながら美鈴の到着を待つ。

携帯が震えた事に気付き、ポケットから取り出し確認すると、菊池から『もう少しで到着します』とメッセージが届いていた。




さて、リンはどんな風に仕上がったのだろう




菊池達に任せたし、特に問題はないだろうと思う。

準備の流れを美鈴に何も説明していなかったが、特に難しい事はなかっただろうし、順調にいった筈だ。


あの場に居合わせなかったら、

あんな美鈴の表情を見なかったら、

いつもと変わらない日々を過ごしていただろう。


煙草の煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出しながら、そんな事を思う。


別に気紛れではないし、同情でもない。

山田には素直に腹が立ったし、被害者の事を思えば、美鈴が言うようにぎゃふんと言わせたかった。



自分は恋愛とやらには、奥手というか何というか。

そこまで興味がある訳ではない。

好きな相手がいる訳でもないし、共に歩んでいきたいと思う人もいない。


こと恋愛においては、きっとドライな方だろうと思う。


例えば自分に、大切と思えるような人が出来たらどうなるのだろう。

浮かんだ疑問符を、自身にぶつけてみる。


自分は変わるのだろうか。

そのままだろうか。


恋愛を大事にし、愛を育み、心を重ね合わせ、ただ1人の人と共に生きたいと思うだろうか。



考えてみても、答えが出る事はなかった。

残念ながら、ヒントが見える事もない。


自分には1人が似合うのではないか。

どうしてと問われたら、上手く答えられはしないだろうけど。


1つだけ言えるとしたら…。

好きな人が出来るのが、少し怖いのかもしれない。

自分は、自分だけが、幸せになっていいのかと、立ち止まってしまいそうな気がして。


誰かと付き合って、長続きした事もないし、相手から本当の『好き』を受け取ったのはただ1度だけ。

…彼は今、どうしているだろう。

幸せな日々を、過ごしているだろうか。


彼に未練がある訳ではない。

未だに自分の心に、小さな棘が刺さっていて、たまにチクリと痛むくらいにはなったのだが。


吸い終わった煙草を、灰皿に捨てる。

頭を軽く振り、らしくない自分を笑った。



恋愛は苦手だ



言い聞かせるように、心の中で呟いた。

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