第64話

淡いピンク、空色、パールホワイトのワンピースタイプのドレス。

高級感溢れるバッグ。

エナメルのブラック、ホワイト、ベージュのヒール。

どれもこれも、溜め息が出そうな程素敵なものばかりだ。


1着ずつ試着をし、着て行くドレスを選ぶと、ヒールとバッグは中山が選んでくれた。

席を外していた菊池が戻ってくると、これまた絶対に高価であろうピアスとネックレスを美鈴に付けた。


着替えが終わると、中山が美鈴にメイクを施していく。

手際よくファンデーションを塗り、アイシャドウ、チーク等々を施す。

こんな風に誰かにメイクをしてもらうのは、およそ成人式以来だ。


「よっっしゃ、終わり!」


中山の声がして、それまで閉じていた目蓋をゆっくりと開ける。

鏡には今までの自分とは、全くの別人が映っていた。


「竹田ちゃんは元がいいから、メイクのし甲斐があって楽しいなあ。

 肌も綺麗だからファンデのノリもいいし。

 うん、我ながらいい仕事したわ~」


「美鈴さん、お世辞抜きですっっっごく綺麗です!

 今の美鈴さんなら、どんな男性もイチコロですよ!」


菊池が感嘆の溜め息を吐く。


「これ、本当にあたし?」


何処かどう見ても、美しい女性だ。

同性から見ても、素直に綺麗と言いたくなる。


「では美鈴さん、そろそろ行きましょう。

 道路が混む前に出なければなりません。

 仕度をお願いします。

 荷物はわたくしがお持ちします」


「は、はい!」


「姫、存分に楽しんできて下さいね」


椅子から立ち上がった美鈴に、中山が声を掛ける。


「今の竹田ちゃんは、誰よりも綺麗です。

 自信を持って行ってらっしゃい。

 またうちの店にも来て下さいね。

 いつでもお待ちしております」


ぺこりと中山が頭を下げる。


「こんなに素敵にして下さって、本当にありがとうございます。

 最初はちょっと不安でしたが、中山さんにお任せして良かったです。

 お礼を言っても、言い足りないくらいです」


「お礼なんていりませんよ。

 ほら、静香が待ってるから行かないと。

 出入り口までご一緒します」


先に部屋を出た菊池は、出入口に車を停めて待っていた。


「では、行ってらっしゃいませ」


中山と、他のスタッフに見送られ、美鈴を乗せた車は走り出した。


「幸い、道路は混んでないみたいですので、15分弱で着くと思います」


「そういえば、お店って何処なんですか?」


「ラ・ムーンです」


「あ、あの超高級フランス料理の店ぇえ!?」


「最近はリーズナブルなコースもあるので、そこまでお高い感じはないですよ。

 薫さんはもう着いているそうです。

 美鈴さんを見たら、どんな反応をするか楽しみですね」


車は運よく信号に引っ掛かる事もなく、予想されていたよりも早く到着した。

店の少し手前で車は停車する。


「帰りは薫さんにお任せを。

 それでは行ってらっしゃい、シンデレラ」


車を降りた美鈴に、菊池はウインク1つ。

菊池にお礼を言い、大きく頭を下げた美鈴は、薫が待つ場所へと歩き出した。

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