第62話

「ふ~ん、そっかあ。

 重ね重ね意外だわ。

 もっとクールなイメージだったけど、そうじゃなかったのね。

 それか、よっぽど竹田ちゃんの事がお気に入りなのかも」


「お気に入りの玩具扱いですよ」


「まあ、何にせよ、薫ちゃんが竹田ちゃんに癒されてるって事は解りましたし、その事を知れて良かったです。

 薫ちゃんは不器用だけど、優しい人だと思いますよ」


「そうですね…。

 悪い人じゃないのは解ってます」


その後も薫の事を中心に、話をしながらカットは続いた。

ブラのホック近くまであった髪は、宣言された通りばっさり切られ、髪の長さは肩甲骨の辺りくらいに。

カラーリングもする事になり、今の髪色よりもほんのりと明るい色になった。

このくらいなら、部長にも注意されないだろうと、美鈴は胸を撫でる。


カラーリングが終わり、再び洗髪をされ、それが終わるとブロー。

毛先を軽く巻かれ、クルンと毛先が揺れる。


「よし、とりあえずこんな感じかな。

 仕上げは着替えてからね」


「着替え?」


「あれ?菊池から聞いてませんか?

 髪が終わったらここで着替えて、その後お店に行くご予定と聞いてました」


「着替え…薫さんには、何も持たないで身1つで来てと言われたんですけど…」


と、その時。


「只今戻りました。

 竹田さん、お待たせしてしまってすみません。

 うわあっ、美人が更に美人になられましたね!」


いきなり褒められた美鈴は、思わず頬を赤くしてしまう。


「こんな初々しい反応、うちらじゃ出来ないね」


「あら、あたしは出来るけど?」


「静香が出来るなら、うちにも出来るわな」


菊池と中山のやり取りを見ていた美鈴は。


「お2人は知り合いなんですか?」


「こいつとは仕事柄、付き合いが長いんですよ」


「こいつ言うな。

 時間もなくなってきたし、早く着替えを済ませないと。

 静香、服持ってあっちの部屋へ竹田ちゃん連れてって。

 今メイク道具とか持って行くから」


「はいはい、解った。

 では美鈴さん、一緒に行きましょう」


菊池の手には、超有名なハイブランドの紙袋が。

まさか…まさかね。


「あ、あの、菊池さん。

 中山さんから着替えの話をされたのですが、あたし、着替えなんて持ってきてなくて…」


すると、菊池はにっこりと微笑む。


「ご安心下さい。

 着替えはこちらでご用意しておりますので」


微笑ながら、菊池は持っていた紙袋を美鈴に見えるように持ち上げたのだった。

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