お気に召すまま。

第61話

「今日は何かご予定があるんですか？」

「ん～、建前上は薫さんとご飯に行きます」

「建前上？」

「ぶっちゃけ、あたしに近付いてきて、食い物にしようとした人に一泡吹かせると言いますか」

美鈴の言葉に、中山はぶはっと笑ってしまった。

「それは一泡じゃ済まない気がします。

　鼻血が出るまで殴った方がいいんじゃないですか？」

「そうしたいのは山々なんですが、相手はあたしが務めている会社と取引している人なので、あまり目立った事が出来ないんです。

　大事になったら厄介ですし、あたしに火の粉が飛んできてもヤバいですし」

「な～るほど。

　だったら、精神的に苦しめた方がいいかも。

　何かプランはあるんですか？」

「薫さんが『私に任せとけ』と、悪い顔をしながら言ってました」

その言葉を聞いた中山は、今度は驚いた顔をした。

「へ～、薫ちゃんがそんな事を…。

　意外な一面を知った気がする」

「そうなんですか？」

「薫ちゃんは、こう、何て言うのかな。

　あまり人を近付けないし、自分からもあまり近付かないし。

　人と関わるのが、ちょっと苦手なところがあるというか。

　気難しいとかではないんだけどね。

　まあ、普段の薫ちゃんを知らないから、何とも言えないと言いますか」

「普段の薫さん？

　薫さん、その辺の男性より格好いいから、ファンが多くてモッテモテで。

　うちの会社に品物を届けに来るんですけど、お姉様達からキャーキャー言われまくりで。

　あたし以外には当たり障りなく対応するんですけど、あたしの事はひたすら弄り倒すと言いますか」

中山が更に驚く。

「薫さん、絶対あたしをからかって、日頃のストレス発散してると思います。

　あたしの反応見て、めっちゃ楽しんでるし」

「竹田ちゃん、弄り甲斐がありそうですもんね」

「そんな事ないですよ！

　あたしをからかって、何がそんなに楽しいのか解りませんが、とにかくあたしは毎日からかわれてます」

と、言ったものの。

薫の事を悪く言いたい訳ではない。

彼女が優しい事は、ちゃんと解っている。

あの日の事が頭に浮かぶ。

広げられた腕が、温かく自分を包んでくれた事を。

いつものような態度をとっていたが、それが照れ隠しだった事を。

彼女の優しさが傷付いた心を、そっと撫でてくれた事を。