第60話

服が濡れないよう、専用のケープを付けられ、洗髪コーナーへ。

椅子に案内され、座ると背もたれがゆっくりと後ろへ倒れていく。


程好い暖かさのシャワーのお湯が、髪と頭皮を濡らしていく。

シャンプーの匂いも好きな香りだ。


美容室での楽しみは、やっぱり洗髪だなと美鈴は思う。

優しく洗われていく、この感覚がとても好きだ。

美容師さんに洗髪してもらうのは、どうしてこんなにも気持ちがいいのだろう。

微睡んできて、目蓋が重くなってきたが、タイミングよろしく洗髪が終わってしまい、席に案内された。


先程の美容師が、美鈴の事を待っていた。

別のスタッフが美鈴の髪をタオルで拭こうとすると、美容師は自分がやるからとスタッフからタオルを受け取る。


「あ、申し遅れました。

 担当させていただきます、中山です。

 改めまして、竹田様、本日はよろしくお願いします。

 では、軽くブローしますね」


自分で直接触れた訳ではないが、先程よりも髪が柔らかくなっているのが解った。

髪のコンディションがこんなにいいのは、よもや奇跡に近いのではと思うくらいに。


「じゃあ、傷んでる所を切りつつ、素敵に仕上げていきますね。

 本日のカットイメージは出来ているので、お任せ下さい」


「お、お任せしてしまってよろしいんでしょうか?」


「はい、お任せしていただいて大丈夫です」


内心とても不安だった美鈴だが、中山の笑顔を見たら少しだけ安心感が生まれた。


「解りました、じゃあ、よろしくお願いします」


いつもだったら、携帯で調べた髪形を担当の美容師に見せ、『こんな感じにして下さい』とお願いし、それとなく近いイメージに仕上げてもらうのだが、最初から全てをお任せするのは初めてだ。

どんな感じに仕上がるのか、期待と不安に包まれる。


「しっかし、薫ちゃんが知り合いを連れてくるなんて初めてだなあ」


「そうなんですか?」


「うん、竹田様が初めてですよ。

 自分は薫ちゃんが中学生くらいから担当してるけど、今まで知り合いとかを連れてくる事はなかったですから」


「解るような、解らないような…。

 それより、竹田様と呼ばれるのは恥ずかしいので、普通に呼んでいただけると助かります」


「解りました。

 じゃあ、竹田ちゃんで」


「急にめっちゃフランク!?

 あ、でも、その方が楽でいいや」

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