第59話

「し、死ぬかと…思った…」


肩で息をしながら、ベッドの上で動けないままの美鈴。

もうエステなんてこりごりだ…。


こんな姿を薫は勿論、ゆいにも見せられる筈もない。

爆笑動画として、半永久的に保存されそうなところが怖いと美鈴は思った。


背中の施術もなかなかキツかったが、体がほぐされていくと、全身の血液がフルで巡っている感じがした。

肩こりも緩和されたような気がするし、何より体が軽い。


全ての施術が終わり、紙の下着から解放された。

着てきた服を纏うと、服が少し大きくなったように感じた。


「もしかして…これがエステの力?」


浮腫みもなく、軽い体。

洋服を着ているというよりは、纏っているような感覚だ。


ほんの2時間弱の戦い(施術)で、ここまで体の変化が起こるだなんて、夢にも思っていなかった。

数々の痛み、苦しみに耐えてきた自分を、ただ素直に褒めてあげたい気持ちなる。


「竹田様、お疲れ様でした。

 少しお休みになりましたら、美容室の方にご案内致しますので、こちらへどうぞ」


着替え終わり、案内されたラウンジへ。

高級そうなガラステーブルに、柔らかなソファー。

ソファーに座ると、ハーブティーが出された。

ゆっくりと一口飲んでみると、全身の緊張感が緩んだ気がした美鈴だった。


20分くらいはゆったり過ごしただろうか。

いただいたハーブティーを飲み終わった頃に、スタッフが呼びに来たので美容室へ。


最後に美容室に行ったのはいつだっただろうかと、思い返してみたがすぐに答えは出なかった。

髪も随分伸びたし、枝毛も増えた。


ちゃんと手入れをするのは、決まって彼氏がいる時くらいだ。

「可愛い」とか「綺麗だ」と言われたくて、張り切ってあれこれやっていたが、そんな事は最近はご無沙汰だ。


「こんにちは、初めまして」


自分の担当をしてくれるであろ女性美容師が、にこにこしながらやってきた。


「薫ちゃんから『好きにしていい』って言われてるから、好きにしちゃいますね」


軽やかに、にこやかにそんな事を言われ、「はい、解りました」等と言える筈もない。


「ちょっ、えっ、好きにって…!?」


「ん~、砕いて言えばお任せコースみたいな?

 だ~いじょうぶ、悪いようにはしないから。

 あ~、枝毛が凄いですね。

 傷み具合も酷いですし、ばっさりガッツりぶった切りましょう」


「さらっと怖いし物騒ですよ!?」


「だ~いじょうぶですって。

 では、まずシャンプーしますね~」


逆らう間も与えられないまま、スタッフに連れていかれたのであった。

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