第58話

「それでは施術を開始させていただきますね。

 心身ともに楽にして下さい。

 では、こちらのベッドに仰向けになって下さい」


諦めを噛み締めながら、案内されたベッドに横たわる。

紙の下着は恥ずかしいが、美鈴は初めてのエステに期待をしていない訳ではない。


『華のように美しく

 雪のように儚く』


がこのエステのポリシーらしい。

美鈴とて年頃故、綺麗にも美しくもなりたい。

そう、どんな男性も振り向くくらいに。


フェイシャルマッサージが始まった。

オイルの香りは柑橘系で、気持ちがとてもリラックスする。

顔のライン、首、デコルテと、流れるように施術されていく。


『セレブはこんなんいつでもお気軽にやってんのかあ。

 いいなあ、あたしもセレブだったら、週1でやってもらいたいのに~』


そんな事を、ほんわかと考えていると。


「それでは、お腹の方をやっていきますね」


優しいスタッフさんの声を聞きながら、ふんにゃりと「は~い」と返した美鈴だったが、


『うほお、は、腹の肉をほぐされて…ほぐされすぎ…いでででで。

 おかしいな、さっきのマッサージとは違うような…』


優雅な気持ちで施術を受けていた美鈴だったが、口唇から『ぐっ、ぐえっ』という小さな声を溢し始める。


腹の施術が終わると、太もも及び脚の施術が始まった。

始まったのだが。


「ぎぃいやぁあああああっ、いだだでででででっ!!」


「竹田様、リンパが詰まっておりますので流しますね~」


「流さな…あばばばっ、ばぁ~っ、痛い痛い痛い痛いっ!」


叫びながら悶えるも、なす術がないのが現状。

両手は握り拳が握られ、ただひたすらに耐えるしかないのだ。


「ぶぇっ、いでっ、ぼぁああっ!!」


「太もものリンパも詰まってるので流しますね」


「ちょちょちょちょっ、いでっ、あがあっ!!」


セレブはこんな拷問を、顔色1つ変えずに受けているのか!?

セルロイドが破壊されていく。

リンパの詰りが元気良く解消されていく。

が、それに伴うこの痛みはキツすぎる!!


先程までの余裕は何処へやら。

苦痛に悶え苦しみ、叫びながら身を捩る美鈴は、まな板の上でのたうち回る魚のようであった。



『い、いっそ楽にしてけれ…』



遠退きそうな意識の中、よもや我慢勝負にも似た状態だったが、鼻息を荒くしながら、美鈴は何とか堪えたのであった。

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