第56話
走り出した車の中はただ静かで、美鈴はどうしたらいいもんかと考える。
会話がないままでは申し訳ないだろうか。
しかし、何を話せばいいのか解らない。
狼狽えているのを察したのか、菊池が口を開く。
「そう緊張なさらず、気を楽にして下さって大丈夫ですよ」
バックミラーをちらりと見ると、菊池と目が合った。
彼女はにっこりと目を細める。
「えっと、その、いまいち状況が呑み込めてないと言いますか…。
菊池…さん?は、薫さんとはどういうご関係…あっ、いやその、深い意味ではなく!」
美鈴の言葉に、菊池は声を出して笑う。
「わたくしはかおちゃ…薫さんのお父様の秘書をしております。
薫さんは、彼女が子供の頃からの付き合いです。
先日薫さんから『知り合いの手伝いをしてほしい』と連絡をいただき、スケジュールも空いていたので快諾しました」
「やっぱり秘書だったんだ…ん?薫さんのお父様の秘書!?
んんん?薫さんって一体何だ!?」
素が出ている事にも気付かぬまま、思った言葉がそのまま出ている美鈴を、菊池はクスクス笑いながら反応を見ている。
「詳しい事はわたくしの口から直接申し上げる事は出来ません。
とにかく、わたくしは怪しい者ではないのでご安心下さい」
楽しそうな声が聞こえてきたが、美鈴は薫の存在が何者なのかの方に気を取られていた。
「それでは竹田様」
「あ、美鈴で大丈夫っす。
あと、様付けもしないで大丈夫っす」
「承知しました。
改めまして美鈴さん、この後はエステにお連れします。
美鈴さんを下ろした後、わたくしは別所に向かわなければならないので、お1人にさせてしまって申し訳ないのですがよろしくお願い致します」
「エステッ!?
紙の下着を付けて、オイルやら何やらで全身くまなくあれやこれやされるというエステ!?」
「左様でございます。
あれやこれやされましたら、同じ建物に入っている美容室にご案内されます。
終わる少し前には、わたくしもそちらに行けると思いますのでお待ち下さいね」
必死に笑いを堪えながら、美鈴に話す菊池だったが、美鈴の反応が面白すぎてそろそろ限界も近い。
「み、見知らぬお姉さんに自分のわがままボディを見られるなんて…!?
てか、何かものっそい大事になってるような!?
いやそうじゃなくて、エステも美容室も頼んでないって!
お、お金そんなに払えない!
あれやこれやされてる間に体の写真撮られて売られるの!?」
「ぶはあぁっ!
み、美鈴ちゃん…間違えた、美鈴さん、そんな事はないから大丈夫です。
支払いは全てこちらで済ませますのでご安心を」
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