第55話

寝れたような、寝れなかったような。

カーテンの隙間から注いだ陽射しに起こされた、土曜日の朝。

いつもならもう少し寝ているのだが、すっかり目が覚めてしまったので、ベッドから抜け出した。


カーテンを開けてみると、梅雨時期だが久々の青空が広がっていた。

もくもくとした白い雲が、気持ちよさそうに空を泳いでいる。


つけていたエアコンはそのままに窓を開けてみれば、蒸し暑さが顔を撫でた。

この蒸し暑さが終われば、いよいよ夏も暑さも本番。

うだる暑さを思えばうんざりするが、夏はイベントが多いから嫌いではない。


気の早さをクスリと笑うと窓を閉め、前日買って冷蔵庫で冷やしておいたペットボトルのミルクティーを取り出す。

グラスに氷を入れ、ミルクティーを注ぐと静かに飲む。

口の中に広がる甘みが、まだ微睡んでいた頭をゆっくりと起こしてくれた。


飲みつつ、ベッドに置かれたままの携帯を手に取る。

薫に送ったメッセージに既読は付いていたものの、やはり返信はなかった。

まあいっかと、気を取り直して朝食の準備を始めた。


昼過ぎにゆいから、『今日は決闘の日でしょ?相手の奥歯ガタガタいわせてやりな~』とメッセージが届いた。

気持ちを和らげようとしてくれたのだろうか。

微笑ながら、『ぎゃふんと言わせてくるね』と返信をしておいた。


15時になる少し前に駅に到着した美鈴は、薫の迎えを待っていた。

日陰で待っているも、暑さは厳しく額に汗が浮かぶ。


どんな人が来るんだろう。

てか、何で当の本人が来ないんだ?

そう思った時だった。


「すみません、竹田様ですか?」


不意に見知らぬ女性に声を掛けられ、思わず目をぱちくりとしてしまった。


「あ、はい、そうですけど…」


恐る恐る返答すると、その女性は途端に笑顔を浮かべる。


「わたくし、横山薫の使いの菊池静香と申します。

 お話は横山から聞いております。

 では、早速ですが、お車までご案内いたします」


年齢は40代前半くらいだろうか。

キリっとしていて、ビジネスウーマン…秘書のような人だ。


案内された車のバックシートに乗り込むと、菊池は運転席に乗り込む。


「本日は僅かな時間ではございますが、何卒よろしくお願い致します。

 何かございましたら、何なりと遠慮なさらずにお申しつけ下さい。

 それでは出発しますので、お手数ですがシートベルトをお締め下さい」


にこりと微笑む彼女の笑顔は、業務的なそれではなかった。

言われた通りにシートベルトを締めると、間もなくして車は静かに走り出した。





『ちょ、あたしどうなるんだ…?』

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