第54話

その日の事を考えないようにするつもりはないし、なるべく考えないようにもしていた。

が、考えないようにすると、思いとは裏腹に考えてしまうものだ。


山田からあれだけ見下され、いらん言葉も沢山いただいたのだから、怒り等を綺麗に梱包し、おまけにリボンでも施し、顔に投げつけてやりたいくらいだ、と美鈴は仕事をしながら思う。

怒りは勿論あるのだが、同時に切なさややるせなさも生まれてくるのだ。

この人ならと思ったのに、今回も見事に外れくじ。

誰が悪い訳ではないのは解っているが、その気持ちを何処にぶつけたらいいのやら。


明日はいよいよ決戦の日。

気合いが入らない訳もなく、山田にどんな言葉を投げつけてやろうかと考えてみる。

のだが、それよりも薫と一緒に出掛ける事の方にいってしまう。


だからどうとか、薫の事を考えている訳ではない。

ただ、いつもとは違う表情や言葉に、驚きや意外性を感じているというか。


優しい人だという事は解っているし、知っている。

たまたまあの場に(運悪く)居合わせてしまっただけなのに、こんなに自分に協力してくれるとは思っていなかった。

彼女の知らない一面を見たり知ったりする度に、彼女に対する見方が変わっていっている気がした。

無論、勿論、恋愛のそれではないが。


あんなに優しいし、見た目も申し分ないのだから、付き合っている人はいるのだろう。

彼女はどんな風に付き合うのだろうか。

想像してみたが、上手くはいかなかった。


どんな笑顔を向けるのだろう。

どんな表情で愛を伝えるのだろう。

疑問はシャボン玉のように生まれていくが、はっと我に返って頭を左右に振る。


それを知ったところで何にもならないし、メリットもない。

彼女は、あくまで仕返しを手伝ってくれる協力者。

そして、仕事上での付き合い。

それ以上でも以下でもないのだ。


今、自分が考える事は明日の事だけだ。

そう自分に言い聞かせる。

気持ちを引き締める。



その日の夜。


『明日は駅で待ってて。

 迎えの人が行くからさ。

 全部こっちに任せて。

 じゃあ、明日ね』


一方的なメッセージが届き、『どういう事ですか?』と返信をしてみたが、既読が付く事はなかった。

不安に思ったものの、とりあえず薫を信じるしかない。

諦めて眠りについた美鈴だった。

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